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第3話「静かな食卓」

城の内部には長い廊下が続いていた。明るい色調の壁は、天井から吊るされたランプの光を受けて輝いているように見える。完璧に磨き上げられた床には、近代的な絵画や青々と茂る観葉植物が映り込み、その厳かな場所に生命力と温かみを与えていた。


 一行は沈黙の中で進み、足音だけが石壁に静かに反響した。通路沿いには重厚な木製の扉が並び、おそらく執務室や使用人たちの居室へと繋がっているのだろう。


 奉公人たちが音もなく効率的に行き来し、彼らとすれ違うたびに軽く会釈をした。生徒たちは好奇心を抱きながらも、どこか居心地の悪さを滲ませる衛兵たちの誘導に従い、足を止めることはなかった。


 やがて廊下は、途方もない広さの食堂へと繋がった。中央には明るい色の木で作られた巨大なテーブルが鎮座し、王室の紋章が金糸で刺繍された純白のテーブルクロスがかけられている。


「どうぞ、席にお着きください。未来の勇者様方」


 衛兵の一人が、いささか形式張った声で促した。


 テーブルはあまりに大きく、三十人の生徒が座ってもなお、多くの空席が残っていた。ひかりは一番端の席に座り、ゆうなは元の世界との繋がりを失いたくないかのように、すぐにその隣へ滑り込んだ。


 テーブルは既に客人を迎える準備が整えられていた。それは、彼らの到着が事前に分かっていたのであり、不意に召喚されたわけではないことを物語っていた。


 席に着くやいなや、給仕用の扉から執事たちが列をなして現れた。完璧に同期した動作で、彼らは各客人の前に季節の野菜のポタージュを置いた。フレッシュクリームが回しがけられ、芳香を放つハーブが添えられている。


 何人かの生徒が控えめに礼を言ったが、執事たちは無表情を崩さず、一言も発さずに部屋を後にした。


「どうか、友好の印としてこの料理をお受け取りください」


 最初から同じ衛兵だけが口を開いていた。彼らの窓口となる相手も、到着前から既に決められていたのだろう。


 昼食時ということもあり、空腹と緊張による疲労に突き動かされるように、高校生たちは食事を始めた。


 少しずつ、食器の触れ合う音やひそやかな話し声が広間を満たし、パニックは束の間の静穏へと取って代わられた。しかし、中には食事にほとんど手をつけない生徒もいた。


 ゆうなは料理を味わいながら、興奮を隠そうとしなかった。


「これ、すっごく美味しい! こんなの食べたことないよ。ねえ、ひかりちゃんも絶品だと思わない?」


「ええ、そうね。でも、私の誕生日の時に似たようなものを食べたことがあるような……」


「そうなの? 何歳の時?」 「十歳、だったかしら」


「ごめん、忘れちゃってた! でも、ここのは全部……なんていうか、味が違う気がする」


 緊張がようやく解けていく友人の姿を見て、ひかりは少しだけ楽しそうに微笑んだ。


「でも、どうしてそんなに嬉しそうなの、ゆうな?」


「だって見てよ! 最高じゃない! 異世界なんだよ、ひかり! 可能性は無限大だよ。考えただけで、もう居ても立ってもいられないくらい」


「あんまり大げさに考えないで。ここで具体的に何をすることになるのか、まだ分からないんだから」 「そうかもしれないけど……私たちはただの高校生だもん。まあ、それも長くは続かないかもしれないけどね」


 二人の間に沈黙が流れた。ひかりは皿に視線を落とし、不意に暗い考えが脳裏をよぎった。


「怖くないの……? 私たち、元の世界に二度と帰れずに、ここで死んじゃうかもしれないのに」


「どうして帰りたいなんて思うの?」


 ゆうなは、戸惑うほど屈託のない様子でそう言い放った。


 ひかりは胸を締め付けられるような思いで、ゆっくりと彼女の方を向いた。聞き間違いではないかと思い、一瞬呆然とする。友人の瞳には、微塵の迷いもなかった。


「……夢でも見てるのかしら」


 自分がどうかしているのだと思い込もうとして、彼女は独り言を漏らした。少なくとも親友と一緒にいられるのだからと、あまり深く考えないように努めたが、思考は執拗に彼女を追いかけてきた。


「何か言った?」


「いいえ、なんでもない。食事を済ませて」


「自分のことも考えなよ。ほとんど手をつけてないじゃない!」


 痛いところを突かれ、ひかりは無理やり数口を口に運んだ。


(本当に、帰る方法があるといいんだけど……)


 食事が終わると、執事たちは現れた時と同じ控えめな動作でテーブルを片付けた。生徒たちが自分たちの未来について話し始めようとしたその時、扉を鋭く叩く音が響いた。


アウレリアは二度ノックして部屋に入ってきた。彼女の杖は、相変わらず主の後ろを忠実に浮遊している。


「戻りました」


 彼女は帝国の貴族のような優雅さで、長いテーブルの席に着いた。


「残念ながら、国王陛下との謁見は明日以降となります。現在、王妃様が病に伏せっておられ、宮廷はその対応に追われておりますので」


 彼女は一瞬だけ頭を下げ、恭しく哀悼の意を装ったが、すぐに穏やかな微笑みを浮かべて顔を上げた。


「しかし、皆さんの今後の責任について、お伝えできることは今から始めましょう……」


「いい加減にしろよ!」


 雷鳴のような怒声が彼女の言葉を遮った。テーブルの中ほどに座っていたリュウジという名の、体格が良く挑発的な目つきをした少年が、椅子に深くふんぞり返っていた。


 彼は先ほど教室の扉を無理やり開けようとしていた生徒だ。彼は遠慮もなく、刺繍の施されたテーブルクロスの上に足を組み、クリスタルグラスを倒しかけながら言い放った。


「なんですって?」アウレリアは目をわずかに細めて呟いた。


「あんたのくだらない世間話にはもう飽き飽きなんだよ!」クラスメイトたちの動揺を無視して、リュウジはまくし立てた。「そんなことより、どうやってこのクソ溜めからおさらばできるのか教えろよ」


「天上の巫女様に向かって、なんという無礼を!」  衛兵の一人が激昂し、剣の柄に手をかけて一歩前に出た。


 アウレリアは鋭い手招きで兵士を制した。兵士は怒りに拳を握りしめながら立ち止まったが、リュウジは巫女が動かないのをいいことに、鼻で笑いながら挑発を続けた。


「なんだ、耳が聞こえねーのか? この茶番はもう十分だ。飯も食ったし、みんな仲良しごっこも済ませた。さっさと元の場所に帰せよ。今すぐにだ」


「それは不可能です」  彼女は凍りつくほど淡々とした口調で答えた。


 リュウジの顔から笑みが消え、憎しみに満ちた歪んだ表情に変わった。「あ……? 聞き間違いか?」


 彼は席から勢いよく立ち上がった。怒りとその恵まれた体格に任せてテーブルを強く叩き、食器を乱雑に散らかした。


「もう一度言ってみろ。あぁ?」


「不可能です……今のところは、と言ったのです」


 部屋の中の空気は、息が詰まるほど重苦しくなった。何が起きるのかと怯え、数人の生徒が立ち上がった。


「おい、リュウジさん、やりすぎだよ! やめなよ!」  隣の席の生徒が彼をなだめようとする。


「黙ってろ! これは俺とこいつの問題だ!」


「どうか、お静かに願えませんか?」  アウレリアは今度は感情を削ぎ落とした表情で求めた。


「断るね! 今まで黙って聞いてやってたのは、状況を理解しようとしてたからだ。あんたらの魂胆は分かってんだよ。俺たちを捨て駒にするつもりだろ。誰がそんな手に乗るか! 必要なら全員ぶちのめして、一人で帰る方法を見つけてやる!」


「……いい加減にしなさいと言ったのです!」


 アウレリアの表情が一変した。それまでの慈愛に満ちた眼差しは一瞬で消え、瞳には冷酷な光が宿った。


 リュウジはその豹変ぶりに驚き、一瞬たじろいでから、無理やり椅子に座らされたように顔を伏せた。彼はその眼光に完全に気圧され、目を上げることすらできなかった。


「……も、申し訳ありません」


「よろしい。では続きを始めてもいいでしょうか、リュウジ……さん。間違いありませんね?」


「あ……はい……」


 ひかりは困惑し、彼から目を離せなかった。リュウジは、これほど素直に命令に従うような人間ではないはずだった。


「でも……彼、どうしちゃったの?」


 彼女は次に巫女を見つめた。一体何が起きたのか、驚きを隠せなかった。


 アウレリアは再び穏やかな表情に戻り、一つ溜息をついた。


「やれやれ、なんて無鉄砲な。転移ができる相手を挑発するなんて。かすり傷一つ負わせられるわけがないでしょうに」


「ちょっと言い過ぎだよ、ゆうな……。彼女が他に何ができるのかも分からないのに。今の、怖かったわ」


「そうかな? あんた、映画とか見ないの? あんなの、彼にとって最悪の結末になるって一目で分かったじゃん。強がって負けただけだよ」


「あなたって人は……」


 ひかりは引きつった笑みを浮かべた。この暴力的な空気にこれほど早く適応しているゆうなに対し、ひかりはこの場にいる一分一秒が不安で仕方がなかった。


「お騒がせして申し訳ありません。あまりに無作法な振る舞いには、つい自制を失ってしまうことがありまして。このような騒動は、二度と繰り返したくありませんものね?」


 若者をこれほどの状態に追い込んでおきながら、彼女は事もなげにそう言い放った。

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