【第96話:黒衣の女、再び──そして時の片鱗】
王都の北門。
朝霧が街道を白く覆う中、ロイたちは再び黒衣の女の出現を知らせる報告を受けた。
「……またかよ」
ロイが肩を押さえつつため息をつく。
クランは剣を握りしめ、ルナは魔導書を肩に担いでいた。
「行きますよ。奴が暴れれば、被害は街全体に及ぶ」
「……でも、ロイ殿、また無茶しそうですわね」
ミレイナが冷静に言うが、目には決意が宿っていた。
四人は街道を進む。霧の向こうに、淡い紫の光が揺れる。
「奴だ」
クランが指さす先、黒衣の女は静かに立っていた。
「やっと会えましたね、“時を越えし者”」
その言葉に、ロイの胸が一瞬ざわついた。
「……なんだそりゃ?」
「あなたの正体を知っている……らしい」
ルナの眉がぴくりと動く。
女が杖を振るうと、闇の渦が地面から立ち上がった。
「行くわよ、ロイ!」
「はいはい、俺は……後ろから支えます!」
クランが先陣を切り、剣が光の筋を描く。
ルナの魔法が追い打ちをかける。
闇の渦は次第に縮小し、女はわずかに後退する。
「さすが……ですが」
黒衣の女が呟くと、闇が再び立ち上がった。
「ここで倒す……!」
「無理だ、ロイ!」
仲間たちの声も届かぬ距離で、ロイは無意識に手を前に差し出していた。
その瞬間、時間が微かに歪む。
風の向きが変わり、闇の渦が一瞬止まったように見える。
「……!?」
「え、何これ……」
ルナとクランも驚きの表情を浮かべた。
その隙に、ミレイナが光の魔法を放つ。
「《セラフィム・レイ》!」
純白の光が渦を貫き、黒衣の女を後退させる。
戦いが終わった後、四人は息を整えた。
ロイは肩を押さえ、地面に座り込む。
「……俺、何かしたか?」
「したっていうか……その、なんか……止めた?」
クランは言葉を濁す。
ルナは腕を組み、冷たい視線だが微かに笑った。
「偶然止まっただけね……でも、面白い現象だった」
ミレイナはそっと近づき、ロイの肩に手を置いた。
「ロイ殿……その力……本当に、特別ですね」
「え? 力?」
「……はい。無意識のうちに、時間を――」
言葉を濁すミレイナに、ロイは頭をかきながら笑う。
「ま、俺のことだから……よくわかんねぇけど、誰かの役に立ったならそれでいい」
その瞬間、クランの目がキラリと光る。
「……あんた、やっぱりすごいんじゃん」
ルナも小さく呟いた。
「……人間、舐めちゃいけないのね」
夜空に月が昇る。
四十肩おじさんは今日も痛みに耐えながら、
仲間たちの笑顔を見上げ、静かに心を満たしていた。
――そして、遠くの城壁の影で、黒衣の女は呟く。
「やはり……時を越えし者。
この者が鍵になるとは……面白いことになったわ」
風が街道を渡り、夜は静かに更けていった。
四十肩おじさん・ロイの物語は、まだ序章に過ぎなかった。
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