【第93話:ズバズバ魔導士ルナ、登場!】
王国の復興が進み、街にも少しずつ笑顔が戻ってきた。
その中心で、今日もロイは地味に働いていた。
「よいしょ……っと。あいたたた……くぅ~、肩が抜ける……!」
「もう、またですかおじさん! 無理しないでください!」
駆け寄るクランの声は、いつの間にかすっかり“世話焼き口調”になっていた。
ロイも「悪い悪い」と苦笑しながら、肩をぐるぐる回す。
そこに、王女ミレイナが姿を現す。
淡い青のドレスが風に揺れ、周囲の人々が思わずひざまずく。
「皆さま、ご苦労さまです。ロイ殿、こちらに温かい飲み物を」
手には、湯気の立つ陶器のカップ。
「えっ、王女様自ら……そ、そんな恐れ多い!」
「よいのです。英雄にこれくらいの感謝は当然です」
そう言って、ミレイナはやさしく微笑んだ。
その瞬間――
「な、なに王女様! おじさんに優しくしすぎじゃないですかっ!?」
クランがずいっと間に割って入った。
ミレイナは穏やかに首をかしげる。
「優しく? これはただの礼儀ですわ」
「う、うそだ! 顔がほんのり赤いですっ!」
「……そういうあなたも、ずいぶん近いですわね?」
「なっ……! これは、そのっ……おじさんが危なっかしいから!」
ロイは二人の間でおろおろしながら、苦笑するしかなかった。
「なあ……二人とも、俺はただの肩痛いオッサンだぞ……?」
「おじさんは黙っててください!」
「ロイ殿は黙っていてください!」
声がぴたりと重なった。
周囲の兵士たちは「お、おじさんモテてる……?」とざわつく。
王都復興の現場は、今日も騒がしい。
……いや、正確には、ロイのまわりだけがやけに騒がしい。
「アンタたち、見てるだけで腹立つわね」
三人が振り返ると、瓦礫の上にひとりの少女が立っていた。
長い赤紫の髪、尖った帽子、そして腕には古びた魔導書。
その眼光は、まるで人を見抜くように鋭い。
「……誰だ、お前?」
ロイが肩を回しながら問うと、彼女は鼻で笑った。
「ルナ。あんたたちの町の復興があまりにトロいから、手伝いに来てやったの」
「おお、それは助か――」
「ただし、無能は足手まとい。指示に従わないなら邪魔。以上」
「ぐっ……! なんかグサグサくるな」
「ほんとね……ちょっとはオブラートって言葉を覚えなさいよ!」
クランが食ってかかるが、ルナは肩をすくめた。
「オブラートに包んでも中身がマズけりゃ意味ないでしょ。事実を言ってるだけ」
ミレイナは小さく笑みをこぼす。
「……面白い方ですわね。ロイ殿、ぜひ仲間にしてみては?」
「え、えぇ? いや、俺みたいなオジサンに従うタイプじゃ……」
「アンタ勘違いしてるわね。あたし、アンタの人柄は嫌いじゃないのよ」
「……え?」
「バカ正直で、無理してても笑ってる。
そういう奴が一番、放っておけないの」
その言葉に、ロイもクランも一瞬黙る。
ルナは顔をそむけ、軽く呪文を唱えた。
青白い魔法陣が輝き、瓦礫がふわりと宙に浮かぶ。
「さ、さっさと片づけるわよ。……四十肩だっけ? あんた、指揮だけとって」
「お、おう……助かる……」
「感謝は働いてから言いなさいっての」
クランが小声でつぶやく。
「……なんか、この子にも負けた気がする」
ミレイナは優しく微笑む。
「でも、よい風が吹きましたね。きっと、また前に進めます」
瓦礫の上で、三人の女性に囲まれながら、ロイは頭をかいた。
――なぜこうなるんだ、俺の人生。
月が昇る王都に、笑い声が響いた。
新たな仲間・ルナ。彼女のズバズバな言葉が、物語をまた少し転がしていく。
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