【第88話:牢獄からの脱出】
「ロイ、起きろ」
眠りから覚めたロイの視界に飛び込んできたのは、ゼイヴだった。今は仮面をつけていない―美形だ――
「あ……お、おい……ここは……?」
あたりを見回すと、そこは牢獄。薄暗く冷たい空気が漂っている。慌てて身を起こすが、肩に鋭い痛みが走った。四十肩の悲鳴だった。
ゼイヴは微笑みながら言う。
「そう、また時を超えたのです」
ロイは何を言っているのかわからず、頭を抱えた。心配なのは、今まさに戦っているはずのカレン達。しかし戻る術は、今のところない。
その時、牢の隅から驚きの声がした。
「急に……現れて……どうなってるの?」
振り向くと、そこにはもう一人、女性がいた。剣士の装束を纏い、戦いの疲れが色濃く残る彼女――クランだった。
ゼイヴは丁寧に頭を下げる。
「お嬢様、突然で申し訳ありません。私はゼイヴ、このおじさんはロイと申します」
ロイは無意識に肩を揉みながら突っ込む。
「俺だけおじさんかよ……」
クランは狼狽しつつも事情を話す。
「私はクラン……この王国の剣士でした。魔物が突然現れて、王国は乗っ取られ、私はここに閉じ込められ……王と王女も、同じく囚われています」
ゼイヴは静かに頷く。
「なるほど……では、今はあなたを信頼しましょう。ロイ、初めての共闘とします」
ロイは口が開きっぱなしだ。四十肩で戦力微妙な自分に、まさかの共闘指令。
クランは足を負傷しており、満足に歩けない状態だった。
「たのむ……王と王女を助けて!何でもする……痛っ」
ゼイヴは少し笑みを浮かべると、鋭い細剣で牢の扉を一振りで粉砕した。
「では、まずは王と王女を助けましょう。クラン、指示してください」
ロイもクランも、ゼイヴの剣さばきにただポカンとするしかなかった。
「お、おい……これ、本当に俺が共闘して大丈夫なのか……?」
四十肩を押さえつつも、ロイは覚悟を決めるしかなかった。
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ロイは肩の痛みを押さえながらも、クランを背負って歩き出した。
「お、おい……これ、本当に俺が走るだけでいいのか?」
「ええ、ロイはお嬢さんを背負いながら魔物から守ってください。といっても私が全部倒してしまいますが」冗談に聞こえない。
牢獄の奥へ進むと、突然、魔物の一団が立ちはだかった。
「ぐ……やっぱり来やがったか……!」ロイは思わず後ずさる。
だが、ゼイヴは冷静そのもの。細剣を握ると、まるで空気を切るかのように振るい、一撃で魔物を薙ぎ倒していく。
「え……一撃で!?」ロイもクランも目を丸くした。
「す……すごい……ゼイヴ様……」クランは驚愕で言葉を失う。
「……このおじさん、ただ走ってるだけでいいのか……」ロイは自分の四十肩に感謝しながらも、ちょっとした虚脱感を覚えた。
魔物の残党が再び迫るも、ゼイヴの細剣は止まらない。
空中に舞う魔物の残像が光の帯となり、次々と消えていく。
「ロイ、クラン嬢、王と王女の場所はすぐそこです!」ゼイヴが叫ぶ。
ロイはクランを背負ったまま、肩の痛みに唸りながらも走る。
「四十肩でも……まだまだ……やれる……!」
二人はゼイヴの背中を頼りに、牢獄の最奥へ辿り着いた。
そこには、鎖で縛られた王と王女が待っていた。
「王様、王女様!」クランが駆け寄ろうとするが、足の怪我でふらつく。
「安心してください、私が解放します」ゼイヴが一振りで鎖を切り、王と王女は自由になった。
「……まさか……こんなに簡単に……」王は驚きの表情を隠せない。
王女も目を丸くした。
ロイは肩を押さえつつ、クランを背負ったまま立ち止まった。
「ま、まさか俺……ただ走ってただけで……?」
クランもゼイヴの剣さばきに目を丸くしたまま、息を整える。
「いや……私達、戦力になってない……」
ゼイヴは微笑み、鋭い目で牢獄の出口を見据えた。
「さて、次はここから脱出です。ロイ、クラン嬢、覚悟はいいですか?」
ロイとクランは互いに頷く。
「覚悟……っていうか、肩痛いんだけどな……」ロイがぼそりと漏らすと、クランは思わず笑った。
四十肩おじさんと負傷剣士、そしてチート剣士――奇妙なパーティが、魔物の巣窟からの脱出を開始する。




