【第9話:イタイけど頼れる、新入りフィオナ】
ギルドから依頼された森の調査は、二日目に突入していた。
そして昨日仲間になったフィオナは、朝から絶好調――いや、過剰運転だった。
「ふっふっふ……森の香りは私を歓迎している! 花が舞い、風が祝福していますわ! 今日の私はひときわ輝いていますの!」
……朝からボリュームがうるさい。
テンションが高いのはいいが、テンションだけで木が倒れたりする世界じゃなくて本当に良かった。
「ねぇセレナ、ほんとに連れてきて大丈夫なの?」
リリアが半泣き気味に囁く。
「問題ない。彼女は只者ではない」
セレナが真顔で断言する。
その自信はどこから来るんだ。昨日の黒狼スナイプか?
いや、確かにあれは凄かった。
凄かったが――
「わっ! あだっ……す、すみません! 枝が私の足を妨害しましたの……!」
……お前、自然と相性悪くない?
(ちょ、ちょっと待って! 今の絶対見られた……! いや違うわ、これは森の試練……いやでも恥ずかしいぃぃ! おじさまにだけはドジだと思われたくないのに!)
フィオナは転びながらも、無理やり笑顔を貼り付けて立ち上がった。
「だ、大丈夫ですわ! わたくし自然とひとつ……ですから!」
「いや今、自然に負けてたよな」
俺はとりあえずツッコんでおく。
(やめてぇぇ! おじさま突っ込まないで! いやでも構ってくれてる!? それはそれで……うん悪くないかも……いやいや何考えてるの私!)
フィオナの表情は凛としているように見えるが、心の声は情緒不安定だ。
――――――
そんなやり取りをしていると、前方の茂みがザワ……と揺れた。
「来るわよ」
セレナの声が低くなる。
次の瞬間、森狼の群れがぞろぞろと姿を現した。十匹……いや十二匹か。
「囲まれてる!」
「まとめて来いって感じだな!」
ガイルとリリアが身構える。
俺も武器を握り直した――が、フィオナが一歩前へ出た。
「……ふふっ、やはり来ましたか。森の影に潜む牙たちよ」
(ここよ……ここで決めるのよ私! ドジキャラなんて絶対イヤ! 頼れる美しき狩人として見られたいの!)
フィオナの瞳が鋭くなる。
ついさっきまで足を枝に引っかけて転んでた人だとは思えないほどだ。
――――――
――シュッ!
――シュッ!
――シュッ!
風のような速さで矢が放たれ、放たれるたびに狼が悲鳴を上げて倒れていく。
射撃というより、もはや芸術だ。
「は、速ぇ……」
「これが……孤高の狩人……」
ガイルとリリアが目を見張る。
俺も唸ってしまう。
「すげぇな……まさに一騎当千だ」
フィオナがピタッと動きを止め、弓を下ろし、こちらを見る。
その頬が、ほんのり赤い。
(えっ……ちょ……今、おじさま、褒めた……? 褒めたよね!? ありがとう世界! いや落ち着いて私! 嬉しさを顔に出すな、あくまでクールに……!)
「こ、これくらい、朝の準備運動ですもの」
フィオナは涼しい顔をしてみせた。
(心臓バクバクなんですけどぉぉぉ!)
――――――
「きゃっ!」
しばらくして、可愛い悲鳴が響いた。
見ると――
フィオナが足元の小さな穴にズボッと落ち、頭から地面に突き刺さるような体勢になっていた。
「大丈夫か!?」
慌てて駆け寄る。
「だ、大丈夫ですわ! ちょっと……景色が逆に見えてるだけで……」
(うわあああああ! なんでよりにもよっておじさまの前で落ちるのよ私! いやでも……真っ先に助けに来てくれた……優しい……好き……いや違う! 落ち着け私!)
狼十匹を一瞬で仕留める天才が、落とし穴に負ける。
それがフィオナという存在らしい。
――――――
こうして、
天才的な腕前と、ドジで必死でイタイところを併せ持つフィオナは、
確実に俺たちのパーティの“味”と“混乱”を増していたのだった。
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