【第86話:解き放たれた声】
鎖の師団長の攻撃は止むことなく続いた。
床から壁から天井から、無数の鎖が蛇のように伸び、ロイたちを飲み込もうとする。
「このままじゃ埒が明かない!」
ロイは剣を構えつつ、四十肩にうずく痛みを覚える。
「ぐっ……! い、今は耐えろ……!」
セリーヌが大剣で一閃し、鎖を一瞬押し返す。
「今のうちに突っ込め!」
カレンがその隙を逃さず、短剣で鎖の結び目を切り裂く。
「はぁっ!」
リシュアが魔法を放ち、炎が一条の道を焼き切る。
「今よ、ロイ!」
「おおおおおっ!」
ロイはその道を駆け抜け、師団長の懐に飛び込む――が。
「甘いな」
鎖の一撃を肩で受け、痛みに思わず膝をついた。
「ぐ、ぬぬぬっ! ……四十肩がっ!」
「そこ関係ないでしょうが!」仲間たちのツッコミが飛ぶ。
その混乱の中、ババ様が杖を突き立てた。
「ええい若造ども! わしが時間を稼ぐ。おぬしらは先へ行け!」
「ババ様!?」
「牢はこの奥じゃ、囚われ人を助けねばならんじゃろう!」
仲間たちは一瞬ためらったが、ロイは頷いた。
「……行こう。ババ様を信じる!」
――奥へ走り抜けるロイたち。
やがて暗い牢獄にたどり着いた。鉄格子の向こうから、か細い声が響く。
「……た、助けて……!」
そこには、鎖に繋がれ衰弱した人々の姿があった。
その中に、イレーネの「仲間」もいた。
彼女の目に涙がにじむ。
「……無事で、よかった……!」
しかし、安堵も束の間。
牢の奥から轟音が響き、巨大な鎖が壁を破壊して現れる。
「逃がすものか――」
師団長が鎖を操りながら、再び追ってきたのだ。
「ここからが本番だ……!」
ロイは伝説の剣を握り直す。
「俺たちで必ず助け出す!」
牢獄の救出戦が、いま始まろうとしていた――。
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牢獄に轟く鎖の音。
師団長の影が、鉄格子の奥から迫ってきた。
「ひいっ……!」
囚われた人々が恐怖にすくむ。
ロイは剣を構えたが、肩にビキッと痛みが走る。
「ぐっ……! なぜ今なんだ、俺の四十肩……!」
「いや、緊張感台無しだから!」とカレンが突っ込む。
セリーヌが大剣を振り抜き、鎖を弾き飛ばす。
「ここは私たちが抑える! ロイは鍵を探せ!」
リシュアが魔力を集中し、炎の障壁を展開。
「時間は稼ぐわ! ……ひっ、だ、誰か早く!」
「任せろ!」
ロイは肩を押さえつつ、壁際の棚に駆け寄る。
「……この中か!?」
ジャラリ、と束になった鍵を見つけ、片っ端から差し込む。
「違う!」「これも違う!」
「ロイ、早くっ!」
「わかってるけど数が多いんだよ!」
肩を回しながら鍵を差し替えるロイの姿に、セリーヌは思わず叫ぶ。
「なんでそこでストレッチしてるのよ!?」
そのドタバタの間に、牢の一つがガチャリと開いた。
「……ひ、開いた……!」
囚われの人々が涙を浮かべる。
「全員出ろ! 俺たちが護る!」
ロイが叫び、カレンとセリーヌが前に立つ。
だが師団長は鎖を振り上げ、牢獄ごと崩そうとする。
「ここで終わりだ……!」
その瞬間――。
「うおりゃああああっ!」
炎の壁を突き破り、リシュアのもう一つの人格、ルシアが現れた。
「燃え尽きろぉぉ!」
猛火の魔法が鎖を焼き切り、師団長の攻撃を阻む。
「なっ……!」
師団長がたじろぐ。
「今だ! 全員退けぇっ!」
ロイの声で、人々は牢を飛び出した。
紅の団の師団長は鎖を振り乱すが、多勢を前に足を止めざるを得ない。
「……ちっ。ここは退いてやる」
捨て台詞とともに、鎖の波に紛れて闇に消える。
――静寂が戻った牢獄。
救い出された人々は地に伏し、涙を流した。
「助かった……本当に、ありがとう……!」
イレーネの仲間も無事で、彼女は震える手でロイの手を握る。
「あなたたちがいなければ、私たちは……」
漆黒の羽を持つ、竜に似た魔獣。
「……フェンリル=ノワール!」
イレーネが涙ぐみながら叫ぶ。
「おいおい……でかすぎだろ!」ロイが引き攣った笑いを漏らす。
ロイは肩をさすりつつ、苦笑する。
「いや、正直ギリギリだった。……でも助けられてよかった」
その横でカレンとセリーヌ、ルシア/リュシアが安堵の笑みを浮かべる。遅れてババ様も無事だとわかる。
だが同時に、彼女たちの胸には「紅の団の力の底知れなさ」が刻まれたのだった。
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