【第85話:紅の団の牢獄へ】
紅の団の本拠地にある地下牢に、ロイたちは潜入を試みていた。
案内役はイレーネ。彼女は紅の団に潜入し、仲間の解放を狙っていたが、逆に捕まってしまう寸前まで行った経験を持つ。内部の構造をある程度知っていた。
「この先の通路、見張りは二人。タイミングを見て……」
イレーネの小声に、ロイたちは緊張の面持ちで頷く。
暗い石造りの通路に、たいまつの明かりが揺れていた。
カレンは短剣を構え、猫のように気配を消して前へと進む。
セリーヌは大剣を布で覆い、音を立てないように背負っている。
リュシアは「怖いけど……」と震えながらも、その瞳には強い意志が宿っていた。人格が切り替われば、別人のように大胆になるはずだ。
ババ様はというと……
「わしの四十肩の秘技を試すときが来たかもしれんのぉ」
と小声でぼやく。ロイは慌てて口を押さえた。
「ババ様!声が大きいです!」
「む、すまんすまん……」
(……ほんとに頼りになるのか、この人)
やがて、牢の入り口に辿り着く。
重厚な鉄格子、その奥には囚われた人々の影が見える。
しかし、そこには一筋縄ではいかない気配があった。
普通の兵ではない、師団長クラスの強者が潜んでいる――ロイは直感で悟った。
「……来るぞ」
闇の中、ゆっくりと立ち上がる人影。
金色の仮面をつけ、赤い外套を羽織った男が姿を現した。
「よくぞここまで潜り込んだな、小僧ども」
その声には愉快そうな響きと、底知れぬ冷たさが混ざっていた。
紅の団の牢獄守護の師団長――登場である。
⸻
ロイたちの前に立ちはだかったのは、赤い外套に金の仮面をつけた男。
その手から放たれたのは、冷たい金属音を響かせる無数の鎖だった。
「牢獄の番人として、貴様らを生かして返すわけにはいかぬ」
鎖は意思を持つかのようにうねり、床や壁に叩きつけられ、火花を散らす。
一撃でも喰らえば骨が砕けそうな威力だった。
「ちょ、近づけない……!」
カレンが舌打ちしながら短剣で鎖を弾く。だが次から次へと襲いかかり、間合いが取れない。
「セリーヌ!援護を!」
「任せろ!」
セリーヌの大剣が鎖をまとめて弾き飛ばす。その豪快な一撃に一瞬の隙が生まれた。
だがすぐに別の鎖が彼女の足元を絡め取る。
「くっ……!」
セリーヌの身体が引き倒されそうになった瞬間、ロイが腕を伸ばす。
「セリーヌ!」
「ロイ……!」
一瞬、見つめ合う二人。その距離の近さに、セリーヌの顔がわずかに赤く染まった。
「ちょっと!ロイ、私のこともちゃんと見てよ!」
カレンが嫉妬混じりに叫び、鎖を切り払いながら飛び込む。
その背中にロイが「頼りにしてる!」と声をかけると、カレンの耳まで真っ赤になった。
リュシアは後方で震えていたが――
「……守る、私も……!」
次の瞬間、人格が切り替わり、ルシアの冷たい瞳が輝く。
「鎖ごと焼き尽くしてやるわ」
火球が放たれ、鎖の一部を黒く焦がした。
ババ様はというと……
「おぉ、若いのぉ……誰を選ぶかで大変そうじゃの!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!!」
ロイと三人娘が同時にツッコんだ。
戦場の緊迫感の中にも、妙な熱気が漂う。
だが鎖の師団長は余裕の笑みを浮かべ、さらに鎖を増やしていく――。
⸻




