【第80話:夜営とそれぞれの想い】
深手を負ったわけではないが、全員の疲労は大きかった。
森の開けた場所で焚き火を起こし、ロイたちは一息つく。
ババ様がゴソゴソと荷物を漁りながら、
「ほれ、昔取った杵柄じゃ。秘伝の回復薬じゃぞ」
と怪しい色の液体を差し出す。
「うわっ、絶対ヤバいやつでしょ!」セリーヌが後ずさる。
「効くのか効かないのか……それとも死ぬのか」リュシアがぼそりと呟く。
「飲まんでいい!」とババ様が杖で小突くと、ルシア人格に切り替わり、
「いいから飲め! 効くから! 絶対!」と真顔で押し付ける。
「お前ら、人格変わると主張まで変わんのかよ!」ロイがタジタジになる。
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ロイは腕を回しながら、
「はぁ……今日も肩が勝手に動いて助かったけど、マジで痛い……」
とぼやく。
セリーヌが真剣に観察して、
「つまりその肩、魔族にとっては天敵の“自動迎撃兵器”なんじゃない?」
と分析する。
「誰がそんなポンコツ兵器だよ!」ロイが突っ込むと、
ババ様が「ふむ、名付けて“聖なる四十肩”じゃな」と勝手に命名。
カレンは大笑いして「カッコいいじゃん!」と親指を立てる。
「カッコよくねぇぇぇ!!」ロイが焚き火の上で大絶叫。
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笑いが落ち着いた後、静けさが戻る。
リュシアは膝を抱え、小さく呟いた。
「……わたしが首輪を付けられてたせいで、たくさんの人が苦しんでる」
ロイは火を見つめながら答える。
「それでも助けてくれただろ。おかげで俺たちは生きてる」
ルシアに人格が切り替わり、
「……次はもっと派手にぶちかましてやる。首輪なんざ、絶対に外してやる」
と、強い声で誓う。
セリーヌがニヤリと笑う。
「ま、仲間が増えるのは悪くないわね」
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夜空に星が広がる。
ロイは剣を握り、肩をさすりながら呟いた。
「……ガルド。次は逃がさねぇ」
焚き火の火が大きくはぜ、一行の影を照らし出した。
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翌朝。
ロイたちは町の市場に繰り出していた。
焼きたてのパンの香り、香草を混ぜたスープ、果物を並べる商人たち……。
しかし、町人の笑顔の裏にはどこか不安が漂っている。
ババ様が露店でリンゴを手に取り、店主に小声で尋ねた。
「……最近、妙な連中が出入りしておるじゃろ?」
店主は目を泳がせ、囁く。
「“紅の団”ですよ……。奴らは山の方に砦を築いていて、時々、町から人をさらうんです」
ババ様はフンと鼻を鳴らし、リンゴを二つ持ち逃げしようとするが、
「おばあちゃん! ちゃんと払え!」ロイに首根っこを掴まれる。
「修行代に含めとけ!」
「含めねぇよ!」
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セリーヌは別の店で、
「ねぇ、紅の団のイケメン率ってどのくらい?」
「えっ!? い、イケメン……? いや、その……怖い人たちで……」
「ちぇっ、調査に真剣味が足りないわね」
「お前の調査の基準は顔かよ!」カレンがツッコミを入れる。
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リュシアは怯えながら人々の視線を感じ取っていた。
「……町の人、私たちを見てる……。もしかしてもう紅の団にマークされてるかも」
ルシアに切り替わり、低い声で言い放つ。
「ビビってる暇はない。情報をかき集めろ。砦を突き止める」
カレンが「切り替わり早っ!」と驚き、ロイは「便利だな……」と小声で呟く。
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昼下がり、ひょろ長い若い農夫が近づいてきた。
「……紅の団の連中、山道の北の洞窟をよく使ってます。砦に続く抜け道らしい……」
ロイは真剣に頷く。
「……ありがとう。これで一歩近づける」
だがその直後、農夫は慌てて走り去っていった。
その背に――赤い腕章がチラリと見えた。
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「……罠かもしれんのう」ババ様が目を細める。
「でも進むしかない」ロイは拳を握った。
こうして一行は、紅の団の砦へ繋がる北の洞窟を目指す決意を固めた。
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