【第8話:森で出会ったイタイ天才】
森に入ってしばらく歩いたが――やけに静かだった。
鳥の声も聞こえない。虫の羽音すらしない。
湿った空気だけが、肌にまとわりつくような不気味さを持っている。
(うわぁ……絶対なんか出るやつじゃん。ホラー映画の前兆みたいな静けさだよ……!
帰りたい。肩痛いし帰りたい。)
俺が内心で泣き言をこぼしていた、そのときだ。
「そこのあなた方ぁ~~!!
森の妖精に選ばれし、美しき旅人たちよっ!!」
「!?」
突然、頭上から響いた声に、全員が一斉に身構えた。
見上げる。
そこには――
銀髪ポニーテールの少女が、木の枝の上で片足をかけ、謎のキメポーズを決めていた。
背中には体より大きい弓。
風になびくマント。
どこかで聞いたことのある中二ワードが似合いすぎる表情。
「私の名はフィオナ=ルーンベルク!
風と語らい、月と笑う……孤高の狩人ですっ!!」
(いやいやいや!! なんか出た!!!
痛い、これは痛いやつ! 課金で買える“中二病称号セット”みたいなの全部装備してる!!)
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「い、痛い……」リリアが眉をひそめる。
「だが、構えに無駄はない。鍛えているな」
セレナが真剣に観察している。
(いやセレナ! そこ評価するところじゃないから!)
当の本人――フィオナは、キラリと歯を光らせる。
「運命を感じましたわ! あなた方とは星の導きで出会ったのです!
私も旅に加わりましょう!」
「いや勝手に決めんな!!」
俺のツッコミが森に響く。
(てかこの子、テンションの高さと自己肯定感の強さが同時に天元突破してるだろ……!
俺のメンタルにも少しくれ。)
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そのとき――森の奥から黒い影が飛び出した。
「グルルルルルッ!!」
黒い狼――牙オオカミの亜種だ。
「おっと、これは私の見せ場ですわね!」
フィオナは枝の上で軽く跳ね、流れるように弓を構えた。
風が一瞬止まり――
次の瞬間、矢が放たれる。
――シュッ!!
狼が何かを理解する前に、矢は急所を正確に貫いた。
一撃。完全な一撃だった。
(……は!? うそだろ!?
イタイとか言ってすみませんでした!?)
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狼が崩れ落ちると、フィオナは堂々と胸を張る。
「ご覧ください! これが孤高の狩人の力ですわ!」
(外はドヤ顔100%だけど、今絶対心の中では“当たってよかったぁぁ!!”って叫んでるタイプだろ……)
と思っていたら、案の定――
(――ふぅ……危なかった。風の流れが予想より乱れてた……
でも誰にもバレてないわね。完璧を装っておきましょう!)
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「……すげぇな」ガイルがぽかんとする。
「ふふん、もっと褒めてもいいんですよ?」
フィオナは余裕の笑顔を見せる。
(褒められたい褒められたい!!
でもここで喜ぶとダサいから余裕ぶっとこ……落ち着け私……!)
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「なぁ、俺たちまだ仲間にするなんて言ってねぇんだが?」
一応言ってみる俺。
「いいじゃないですか! 私、強いんです!!」
(いや私ほんとに加入したいのよ!!!
だってソロは寂しいし怖いし虫多いし!!
ここがチャンスでしょ!? ねえ!?)
心の中が圧倒的に必死すぎる。
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リリアが小さく笑う。
「……まぁ、強いのは確かですね」
セレナも頷く。
「戦力になるのは間違いない」
「おっさんはどうする?」とガイル。
「いや……まぁ……あの、頑張ってるし……」
(なんだよ“頑張ってるし”って!
俺、なんで保護者みたいな気持ちになってんだ!?)
こうして――
◆痛いけど本物の天才
◆強いけどドヤ顔が隠しきれない
◆中二心全開だけど内心はめっちゃ必死
そんな“イタイ天才狩人”フィオナが、俺たちの仲間に加わることになった。
(……いや、こんな濃いキャラ仲間に増えて大丈夫か?
いや待て、もしかしてこのパーティ……意外とバランス取れてる……のか?)
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