【第76話:紅の団の影を追って】
ロイたちは宿に腰を落ち着け、紅の団について町の人々から情報を集め始めた。
「紅の団は最近、各地の村を荒らして回ってるらしいな」
「どうも“宝”を探してるって話だ」
「師団長が何人もいて、軍隊みたいな組織だってよ」
町の人々の噂は断片的だが、確かに紅の団は組織的に動いているらしい。
「……伝説の剣も、その“宝”のひとつってことか」
ロイが拳を握る。
セリーヌとカレンも険しい顔でうなずいた。
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一方、リュシアは町外れの露店で情報を集めていた。
彼女に声をかけた商人が、こっそり耳打ちする。
「紅の団は“首輪”を作る技術を持ってる。あれをつけられたら、魔術師は力を制御できなくなる」
「……っ」
リュシアは首元を押さえ、顔を曇らせる。
その瞬間――
「チッ! やっぱりそうか!」
ルシアが現れ、商人に詰め寄る。
「その首輪、どこで作ってやがる!?」
商人は驚き、慌てて口をつぐんだ。
「……すまねえ、そこまでは……」
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その夜。
宿に戻ったロイたちは、ババ様の姿がないことに気づく。
「……どこに行ったんだろうな」
「まさか夜逃げ?」
カレンが冗談を言うが、誰も笑わなかった。
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ババ様はフードを深くかぶり、杖を突きながら林の奥へと歩いていた。
待ち受けていたのは、赤い外套を羽織った屈強な男――紅の団の師団長の一人だった。
巨大な斧を背負い、その目はババ様を射抜くように見据える。
「……久しいな、婆ァ」
「おお……まだ生きておったか。相も変わらず血の匂いをまとっておる」
二人は敵か味方か、言葉の裏を探り合うように静かに笑う。
「伝説の剣が目覚めたそうじゃの」
「……ああ。だが持っているのは、くだらん旅人風情だ」
「ふむ。ならば、しばらく泳がせるがよかろう」
ババ様の瞳に、一瞬だけ深い影が差した。
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こうして翌朝、何もなかったように宿へ戻るババ様。
しかしロイたちは、その不在に疑問を抱いたままだった。
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昼下がりの酒場。
ロイたちは客に紛れて情報収集を続けていた。
「紅の団の連中? 最近は北の街道をうろついてるって話だな」
「ただの山賊かと思ったら、やけに統率がとれてやがる。あれは軍隊だ」
セリーヌが眉をひそめる。
「軍隊規模で動く盗賊団なんて、普通じゃないわね」
カレンは腕を組み、ぽつりとつぶやく。
「……老人をさらったのも、剣を探してたからか」
ロイはグラスを握りしめる。
「本拠地を見つけられれば、動きが分かるはずだ」
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そのとき、隣に座っていたリュシアが小声で切り出した。
「……紅の団の“師団”は、どうやら四方に散らばっているみたいです。
北、南、西、東……それぞれが違う役割を持って動いているらしいのです」
ルシアが顔を出し、机を叩く。
「特に北! 奴らの補給路がある。兵站を握れば一気に弱体化できる!」
セリーヌが興味深げに身を乗り出す。
「補給路……なら、そこを突けば本拠地の場所も割り出せるかもしれないわね」
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そこへ、老人が話に入ってきた。
「じつはな……わしが昔旅していた頃、紅の団の旗を見たことがあるんじゃ。
それは黒い山脈の向こう――“カルドの砦”と呼ばれる場所じゃ」
ロイたちは顔を見合わせる。
「カルドの砦……!」
「やっと本拠地の手掛かりが出たわね」
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しかし、その会話を耳にしていた者がいた。
フードを被った紅の団の斥候が、酒場の奥で密かに席を立ち、外へ消えていった――。
ロイたちはまだ気づかない。
自分たちが「紅の団に見張られる立場」に踏み込んだことを。
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