【第75話:リュシアという少女】
路地裏で追い詰めた女性は、肩で息をしていた。
銀髪のショートボブ、細身の身体。首には黒い金属の首輪が光っている。
「……わ、私は……リュシア……」
おどおどした声。視線も定まらず、すぐに地面を見つめてしまう。
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「その首輪……紅の団の仕業か」
セリーヌが眉をひそめた。
「は、はい……。捕まって、魔力を封じられて……。
でも……さっきの戦いで、少しだけ……抑えきれなくなって……」
リュシアは震える手で首輪を押さえた。
「わ、私が……魔法を撃ったんです……ごめんなさい……!」
「助けられたのに謝るのかよ」
ロイは肩をさすりながら苦笑した。
「俺の肩よりよっぽど役に立ってたぞ」
「か、肩……? だ、大丈夫ですか……? 湿布……ひ、必要ですか……?」
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その瞬間、リュシアの瞳が赤く光った。
「ったく! いちいち謝ってんじゃねぇよ、リュシア!」
突然、声色も口調も荒々しく変わる。
「おいおっさん! 肩の痛みなんざ根性で吹っ飛ばせ! それが戦士だろ!」
「えっ!? えええっ!?」
ロイが目を白黒させる。
カレンが小声でささやく。
「……今、同じ人ですよね?」
セリーヌも「人格、変わったよな……」と呟いた。
ルシアと名乗るもう一人の彼女は、にやりと笑った。
「お前らに助けられた借りがある。紅の団なんざブッ飛ばすのに、協力してやるよ!」
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しかし次の瞬間、また目が青に戻り、
「あ、あの……やっぱり……迷惑、ですよね……?」
と今にも泣きそうな声。
ロイは頭を抱えた。
「おい、人格がスイッチみたいに切り替わるんだけど!?」
ババ様がゲラゲラ笑いながら言った。
「おもろい娘じゃ! これでまた旅が退屈せんわい!」
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リュシアは首を横に振った。
「……でも、私……自分が怖いんです。もう一人が勝手に出てきて……」
だがルシアが再び顔を出す。
「怖がってんじゃねぇ! その力で紅の団をぶっ潰すんだ!」
二つの声が彼女の中で響き合っていた。
ロイはしばし悩んだあと、にやりと笑った。
「どっちのあんたでもいいさ。俺たちには“頼りない奥手”も“豪快な戦士”も両方必要だ」
リュシアの瞳に驚きと、かすかな光が宿った。
こうして――リュシア/ルシアはロイたちの旅に加わることとなった。
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宿の一室。
ロイは布団の上で、うめきながら肩を回していた。
「……いってててて……! くそっ、昨日の戦いでまた肩やられた……」
「だ、大丈夫ですかロイさん!?」
リュシアが慌てて冷たい布を持ってくる。
「こ、これで冷やしてください……! わ、私のせいで余計に戦いが……」
「いやいや、お前のおかげで助かったんだ。ありがとな」
ロイが微笑むと、リュシアは顔を真っ赤にしてうつむいた。
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「ふん! 湿布なんぞじゃ治らんだろ!」
リュシアの瞳が赤く光り、ルシアが現れる。
「四十肩? んなもん肩外して叩きつけりゃ治るわ!」
「やめろ!? 物騒な治し方すんな!!」
ロイが慌てて布団から飛び起きた。
カレンとセリーヌは爆笑。
「ロイ、ほんと愛されてるね」
「そうそう、肩のおかげで奇跡の一撃まで出したしな!」
「いや、それはマジで偶然だから!」
ロイが必死に否定するが、誰も聞いていない。
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翌朝。
カレンとセリーヌとリュシアは三人で湯屋へ向かっていた。
「リュシアってさ、可愛いのに奥手すぎない?」
「そうそう。ロイのこと、結構見てるし」
二人が冷やかすと、リュシアは耳まで赤くなった。
「そ、そんなこと……っ! わ、私は……!」
その瞬間――
「おう! ロイのことが気になってんだろ! 素直になれよ!」
ルシアが飛び出した。
「ひゃああああ!? や、やめてえぇぇぇ!」
リュシアが慌てて顔を覆う。
カレンとセリーヌは大爆笑。
「こりゃ退屈しないわね!」
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夜。宿の食卓。
ロイがスープを飲もうとした瞬間、肩の痛みで「いてっ!」と顔をしかめる。
リュシア「だ、大丈夫ですか!? スープ熱かったんですか!?」
ルシア「そんな顔すんな! 熱かったらそのまま気合で飲み干せ!」
「いや、肩だってば! 熱さじゃないって!」
ロイが必死にツッコみ、仲間たちは腹を抱えて笑うのだった。
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こうして一行に新たな仲間リュシア/ルシアが加わり、旅はますますにぎやかに。
だがその笑いの裏では――紅の団が次の一手を打とうとしていた。
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