【第74話:紅の団、カリナス襲撃】
夜明け前のカリナス。
城壁の上からは、赤い松明の列が延々と続くのが見えた。
「……来やがったな」
ロイが肩を押さえながら呟く。
無数の兵を率いる紅の団。
その先頭には──伝説の細剣を携えた師団長の姿があった。
「お前たち、あの街を焼き払え! 伝説の剣の力を世に知らしめるのだ!」
兵たちが鬨の声を上げ、一斉に突撃する。
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「来るぞ!」
ロイが剣を抜き、カレンとセリーヌも身構える。
ババ様は杖を構え、にやりと笑う。
最初の衝突。
カレンが二刀で飛び込む。
「影燕双舞!」
燕のような連撃が敵を切り裂く。
セリーヌは背後から大剣を叩きつけ、
「巨星落下!」
大地が揺れ、敵兵がまとめて吹き飛ぶ。
ロイも応戦するが──
「ぐおぉぉぉ! 肩がぁぁ!」
剣を振り下ろす瞬間に四十肩が発動。
敵兵が「……え? いま止まった?」と呆気にとられる。
だが、その止まった剣筋が逆に読めず、不意打ちのように敵を倒していく。
「くっ……! マジで俺の四十肩は武器になってるのか!?」
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「チッ……雑魚どもでは足止めにならんか」
師団長が進み出る。
手にした伝説の細剣が淡い光を帯びる。
「小僧……今度は逃さぬぞ」
ロイが一歩前に出る。
「お前からその剣を取り戻す……! 一騎打ちだ!」
師団長は冷たい笑みを浮かべ、剣を構える。
「ふん……何度でも叩き潰してやろう」
二人が激突する──だが、伝説の剣の一閃は速すぎた。
ロイは肩の痛みで踏み込みが遅れ、地面に叩きつけられる。
「ロイ様!」
カレンとセリーヌが叫ぶが、兵に囲まれ近づけない。
師団長は剣を突きつける。
「無様だな……剣も取り戻せず、肩に縛られた戦士よ」
ロイは歯を食いしばる。
「まだ……だ。俺には……仲間がいる……!」
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地面に叩きつけられたロイ。
肩の痛みが脈打ち、剣を握る手が震える。
「立てぬか、小僧」
細剣を構えた師団長の目は獲物を仕留める猛禽のように鋭い。
それでもロイは肩を押さえ、立ち上がった。
「……まだだ。仲間がいる限り、俺は負けない!」
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「ロイ!」
カレンが飛び込み、影のような二連撃を放つ。
「――影燕双舞!」
だが師団長は細剣で軽やかに弾き飛ばす。
続いてセリーヌが巨剣を振り下ろす。
「巨星落下ぁぁぁ!」
轟音とともに大地が揺れる。
しかし、師団長は涼しい顔で身をかわした。
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「今度こそ、終わりだ!」
師団長がロイの胸めがけて突きを繰り出す。
だが――
「うおおおっ、肩がッッッ……!」
痛みでロイの剣筋が急にズレた。
その軌道が偶然にも師団長の脇腹をかすめ、血がにじむ。
「……なにっ!?」
思わず後退する師団長。
「ぜぇっ、ぜぇっ……四十肩で、奇跡の一撃……! これ、完全に武器じゃねぇか……!」
ロイは苦しみながらも勝ち誇ったように笑った。
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師団長が体勢を立て直そうとした、その瞬間。
「――炎槍ッ!」
轟音とともに火柱が走り、師団長を直撃する。
咄嗟に防御したものの、衝撃で伝説の剣を取り落とした。
「なっ……!?」
すかさずカレンが飛び込み、剣を拾い上げる。
「ロイ! これは預かっておく!」
師団長は脇腹の傷を押さえながら、悔しげに睨みつける。
「……ふん。今日のところは退いてやる」
紅の団の兵を従え、師団長は撤退していった。
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静まり返る町。
ロイたちは顔を見合わせた。
「今の魔法……誰が撃ったんだ?」
セリーヌが巨剣を肩に担ぎながら首をかしげる。
その時――路地を慌てて走り去る女性の姿。
直感でロイは叫んだ。
「待て! あいつだ!」
三人はすぐに追いかける。
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追い詰められた女性は、青ざめた顔で震えていた。
「……お願い、近づかないで。私は……紅の団に捕らわれて、首輪をつけられたの」
首元には黒い金属の輪。淡く赤い光が脈打っている。
「このせいで、本来の魔力は封じられてる。でも……あなたたちが戦っているのを見て、どうしても黙っていられなかったの」
そう言って、彼女は肩を落とした。
「私は……魔法使い。だけど……役に立てるかは、わからない」
次の瞬間、彼女の声色ががらりと変わる。
「でもよぉ! さっきみてぇな連中、ブッ飛ばすのは得意なんだぜ!」
妙に威勢のいい笑み。
「えっ……!? え、えっと……二重人格……?」
ロイは思わず後ずさる。
「……ご、ごめんなさい。普段は奥手なんだけど……もう一人の私が勝手に……」
女性は真っ赤になってうつむいた。
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こうしてロイたちは、謎多き魔法使いの女性と出会った。
紅の団に囚われ、首輪で力を制限された彼女が、これからどんな運命を辿るのか――。
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