【第73話:四十肩修行〜道中】
ババ様はロイの肩に丸太を括りつけた。
「よいか、小僧。この丸太を担いで一日歩け」
「ぐおおおおお!! 肩がぁぁぁ!」
ロイは転げまわり、涙目。
だが、ある瞬間「痛みがピークを超えた時」、妙に体が軽くなり、剣を止めるタイミングが変則的になった。
それが「読めない剣筋」としてカタチを成していく。
「……これが四十肩の、力……?」
「そうじゃ。お前の痛みは武器になる。技の名は──痛烈・肩砕斬!」
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一方カレンは、木刀を二本渡されていた。
「両手で二刀を扱え。お主の速さに華を添えるのじゃ」
「二刀流……? 私にできるかな」
最初はぎこちなく交差し、自分の髪をぶった切りそうになる。
「きゃーーっ! あぶな!」
セリーヌはケラケラ笑い、ロイは「女子高生が体育でバット振ってるみたいだな」と突っ込み。
だが数日で、舞うように二刀を操るようになり、完成した必殺技は──
「影燕双舞!」
燕が舞うように、二つの斬撃が重なり相手を刻む。
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セリーヌは相変わらず大剣をブンブン振り回し、地面に穴を量産。
「セリーヌ! 修行場がもたねぇ!」
「だって全力で振れって言われたし!」
だが、ババ様の指導で「重心を地に落とし、力を溜めて放つ」ことを学ぶ。
やがて彼女の一撃は、大地を震わせるほどに進化した。
「見よ! 巨星落下!」
地面に大剣を叩きつけると、大きな岩が弾け飛び、ロイの頭にゴツン。
「いてててっ! お前の技、味方殺しになるだろ!!」
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数日後。
ロイは剣を構え、肩を震わせながらも気迫をまとっていた。
カレンは二刀を軽やかに操り、セリーヌは大剣を自在に振るう。
「……行くぞ、二人とも。今度こそ、紅の団に一矢報いる!」
「ええ!」
「ロイ様に忠誠を!」
ババ様は杖をつきながら頷いた。
「忘れるでない。痛みは武器じゃ……」
その言葉を胸に、旅は再び始まった。
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修行を終えたロイたちは、ババ様を加えて四人旅となった。
紅の団との再戦を誓った一行だったが──その道のりはやけににぎやかだった。
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「よし、今日も頑張って歩くぞ!」
ロイが背伸びをした瞬間──
「ぐぉぉぉぉっ!? 肩ぁぁぁ!!!」
鳥が一斉に飛び立ち、近くの馬車の馬が驚いて暴れる。
「ロイ様! また肩ですか!?」
「毎朝恒例ね……。肩が悲鳴をあげてる男って、戦士としてどうなのかしら」カレンがため息。
「ふぉっふぉっふぉ! 朝の肩鳴らしは修行の一環じゃ!」とババ様。
「……ババ様、それただの老化だろ!」
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森の広場でランチタイム。
セリーヌは豪快に大剣で肉を切り分けるが、テーブルごと真っ二つに。
「ちょっと!? 食器が全部落ちたじゃない!」カレンが怒鳴る。
「ご、ごめんなさい! でもお肉は取り分けやすくなったでしょ?」
ロイは落ちたパンを拾おうと前屈みになり──
「ぐぉぉぉ! 肩ぁぁぁぁ!!」
「もうそれ毎回いる?!」
ババ様は一人、誰よりももりもり食べていた。
「おかわり! 肉はまだか! わしは育ち盛りじゃ!」
「育ちきってシワシワじゃねぇか!」ロイが全力ツッコミ。
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その日の夜、小さな温泉宿に泊まることに。
ロイが湯船でのんびりしていると──隣の湯にババ様の頭が浮かぶ。
「ひょっこりはん!」
「ぎゃああああ! 誰だよこの怪奇現象!?」
「わしじゃ」
「わかってるけど怖ぇわ!!!」
一方、女湯では。
セリーヌは大剣を持ち込もうとしてカレンに止められ、
「武器は置いて入りなさいよ!」
「でも盗まれたら困るし!」
「温泉で盗むやついないでしょ!」
さらに桶を振り上げたセリーヌが──
「えいっ!」
バシャーン!
ロイの男湯に大量の湯が流れ込み、ロイが溺れかける。
「お前ら……俺の四十肩だけじゃなく心臓まで止める気か……」
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宿の布団で横になる四人。
「ロイ様、明日はまた紅の団の痕跡を探すのですよね」カレンが真面目に尋ねる。
「ああ……」と答えたロイの肩がゴキッと鳴った。
「ぐおぉぉぉぉ!」
セリーヌとカレンが慌てて駆け寄るが、ババ様は枕を抱えて笑っていた。
「痛みを楽しめ、小僧!」
その夜もロイの呻き声が響き渡り、宿の客が苦情を言いに来たとか来ないとか……。
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宿を発った翌朝。
ロイたちは町外れの街道で、馬車の残骸と焼け焦げた荷物を見つけた。
「……紅の団の仕業だな」
ロイが拾い上げた木片には、あの“赤い腕章”の紋章が刻まれていた。
セリーヌの表情が険しくなる。
「この感じ……私の故郷の街を焼いた時と同じ」
「つまり紅の団は、次の標的へ向かってる」カレンが呟く。
ババ様は杖を突き、地面をコンコンと叩いた。
「東の街、“カリナス”じゃ。交易の要所ゆえ、奴らが狙わぬはずがない」
ロイは拳を握りしめる。
「なら行くしかないな……奪われた剣を取り戻すためにも!」
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途中、行き交う避難民たちが口々に語る。
「紅の団が来るぞ!」「町を襲うつもりだ!」
「師団長が出るって噂だ……」
ロイは顔をしかめる。
「……あの化け物か」
セリーヌは悔しさで唇を噛む。
「仲間を……家族を奪った奴らを、このままにはできない」
カレンも静かに頷いた。
「でも、今の私たちなら……きっと抗える」
ババ様はニヤリと笑う。
「小僧、痛みを恐れるなよ。今度は勝機を掴めるかもしれん」
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その頃、カリナス近郊。
紅の団の師団長は伝説の細剣を手にし、部下たちに命じていた。
「明日の夜明けとともに攻め込む。街の連中に“剣の力”を見せつけろ」
部下たちは歓声を上げる。
「師団長万歳!」
「紅の団に栄光あれ!」
細剣をかざした師団長の背後で、炎のような揺らめきが走った。
剣がまだ“完全には目覚めていない”ことを、彼だけが気づいていた。
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カリナスの城壁が見えてきた頃。
町にはすでに緊張が漂い、兵士や市民が避難準備を進めていた。
ロイは肩を押さえながら、低く呟く。
「次の戦い……負けられねぇ」
カレンは二刀を抜き、セリーヌは大剣を背負い直す。
そしてババ様は、ニヤリと笑ってこう言った。
「紅の団との再戦じゃ……今度こそ、お主らの真価を見せてみるがいい」
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