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【第71話:赤い腕章の影】

昼下がり、三人は町の食堂に腰を落ち着けていた。

湯上がりの疲れを癒すかのように、ロイは山盛りのシチューをすすりながら、朝の出来事を打ち明ける。


「仮面の徒……?」

カレンはスプーンを止めて眉をひそめる。

「ゼイヴ、グラトス、そしてマーヴォ……。全員が化け物じみた強さだ。しかも、グラトスは十番手だとよ。マーヴォは四番手だって……」


二人は顔を見合わせ、言葉を失った。

「そんな……。あの奴隷施設での化け物が“下の方”なんて……」カレンが呟く。

「ロイ様……危険すぎます……」セリーヌは真剣に見つめるが、すぐに顔を赤らめて「だから私が守ります!」と胸を張った。


重い空気を変えるように、ロイはセリーヌの話を切り出した。

「そういやセリーヌ、お前はなんで森にいたんだ?」


セリーヌはしばし黙り、スープを見つめながら口を開く。

「……私が住んでいた街は、焼かれたんです。赤い腕章をつけた連中に」

「赤い……腕章?」カレンが眉をひそめる。

「皆、同じ印を腕に巻き、炎を放ち、街を蹂躙して……。私は一人、逃げることしかできませんでした。そのまま森に入り込んで、気づけば迷って……」


セリーヌの目には悔しさが浮かんでいた。


ロイが返事をしようとしたその時。

「――おい、来い!」

食堂の外から怒声が響いた。


三人が振り返ると、町の広場で、赤い腕章をつけた二人組が老人を腕づくで連れていくところだった。老人は必死に抵抗していたが、押さえつけられている。


「……!」セリーヌが立ち上がる。

「待て。目立つな」ロイが制止する。

三人は金を置き、音を立てぬように席を立った。


赤い腕章の二人組は老人を連れて路地裏へ。

ロイたちは距離を取りつつ、ひっそりとその後を追った。


やがて、路地の奥で彼らは足を止める。

老人の悲鳴と共に、暗い空気が漂い始めた。


「……ここで何が起きてるんだ?」

ロイは肩をさすりながら呟き、カレンとセリーヌも固唾をのんで覗き込んだ――。



路地裏。

赤い腕章を巻いた二人組が、老人を壁際に押しつけていた。


「抵抗しても無駄だ。さっさと来い!」

「嫌だ!私は何も知らん、放せ!」


そこへロイたちが姿を現す。

「おい、その手を離せ」

「……誰だ、お前ら?」


赤い腕章たちが睨みつける。だがロイは肩をぐるぐる回し、痛みに顔をしかめた。

「くっ……四十肩で威圧もできねぇ……!」


「ロイ、カッコつけるタイミングじゃない!」カレンが叫び、剣を抜いた。

セリーヌも大剣を構えたが、勢い余って地面にガッシャンと突き立て、火花を散らす。

「わ、私が守ります!」

「剣じゃなくて地面壊してるだけよ!」


赤い腕章たちは苛立ちつつも刃を抜いた。戦闘開始。


ロイは肩の痛みで剣を振るたびに「ぐあっ」と叫ぶが、その叫び声で敵がひるみ、偶然一撃を与える。

カレンは冷静に相手を翻弄し、セリーヌは豪快な一撃で壁をぶち抜き……結果的に赤い腕章の二人は押されていく。


「ちっ……今日はここまでだ」

赤い腕章の二人は舌打ちし、煙玉を放ってその場から退却した。


老人を支え起こすと、震える声で言った。

「ありがとう……助かったよ……。やつらは“赤腕団”。この町にじわじわと入り込み、人々を脅している……」

「赤腕団……」セリーヌの瞳に憎しみが宿る。

「私の街を焼いたのも、そいつらです」


ロイは頷き、拳を握った。

「放ってはおけねぇな。肩は痛いが……行くしかねぇ」

「いや、肩は治してからにして!」カレンが即座にツッコむ。


三人は赤腕団を追う決意を固めるのだった。



老人は深く息をつきながら、三人に礼を述べた。


「……ありがとう。お前たちがいなければ、私はもうここにいなかった」


「さっきの連中、あんたを連れ去ろうとしていた。いったい何者なんだ?」ロイが問う。


老人の顔が険しくなる。

「“紅の団”……奴らはかつて辺境を荒らしていた盗賊団だったが、今は金と権力を得て組織化され、まるで軍のような規律を持っている。街を焼き、村を支配し、人々を恐怖で縛るのだ」


セリーヌの目が鋭く光る。

「やっぱり……私の街を焼いたのも、紅の団でした」


老人は頷いた。

「お前たちが彼らに立ち向かうなら……これを受け取ってほしい」


そう言って、老人は布に包まれた一本の細剣を差し出す。


ロイが受け取り、布を解いた瞬間、刃が朝日の光を受けて鈍く輝いた。

ただの剣ではなかった。

柄には古代文字のような刻印、刀身の中央には小さな穴が空いている。


「これは……?」


「“球”を宿す器だ。かつて英雄が使ったという伝説の剣だが、私は老人ゆえ扱えん。……持ち主を選ぶという話だ」


ロイが試しに剣を振ってみると、軽い。

驚くほど軽く、肩への負担がほとんどない。


「……なんだこれ、肩が痛くない! 俺のために作られたみたいだ!」


「いや、そんな伝説の剣の説明ある?」カレンが思わず突っ込む。


セリーヌも口を開けて呆然。

「え、英雄の剣って……四十肩に優しい仕様なんですか?」


老人は静かに笑った。

「真の力はまだ眠っている。剣の穴に“球”を宿すとき、力が解き放たれるだろう」


ロイは細剣を握りしめ、目を細めた。

「……紅の団。絶対に許さねぇ」


剣を腰に差し、三人は次なる戦いに備える。



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