【第70話:温泉での邂逅 ― 仮面の徒マーヴォ】
朝、町の温泉。
ロイは肩をさすりながら、湯気の立ち込める湯にゆっくり浸かっていた。
「ふぅぅぅ……極楽……。やっぱり肩には温泉だな……」
しかし、その横にすでに先客がいた。
長い髪を濡らし、白い仮面をつけた不気味な男――マーヴォ。
「やぁ……君もこの異世界に来たんだねぇ」
低く艶めいた声。背筋が凍るような感覚に、ロイは慌てて身を引いた。
「お、お前は……仮面の徒……!」
「ふふふ、そんなに怯えなくても。僕は今は戦う気はないから安心して。ねぇ、ゼイヴ様には会ったんだろう?」
ロイは一瞬迷ったが、嘘はつけないと悟る。
「……ああ、会った。奴隷施設では……グラトスっていう、恐ろしく強い敵とも戦った」
マーヴォは目の奥で笑った。
「やっぱりそうか……教えてあげるよ。グラトスはね、仮面の徒の一人さ」
「……なっ!」ロイは思わず声を上げる。
「しかもNO.10。つまり、序列では下の方なんだよ」
「……あの強さで……下の方……だと……」ロイは脱力し、湯船に頭をつけそうになる。
マーヴォはゆっくり立ち上がり、仮面越しに笑みを浮かべる。
「ちなみに僕はNO.4。……どう?ゾクゾクしない?」
「……絶対戦いたくねぇ……」ロイは心底から震えた。
マーヴォは肩まで湯を浴びて、背を向けながら言い残す。
「今度は……戦場で会おうね」
そして霧のように湯煙の中へと消えていった。
ロイは力なく湯に沈み込み、肩だけがポコッと浮かんでいた。
「俺……絶対死ぬ未来しか見えねぇ……」
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そのころ女湯。
「きゃあああ!お湯熱っ!」
セリーヌが豪快に湯に飛び込み、大波が立ち、カレンの頭に直撃。
「ちょっと!落ち着きなさい!」カレンが髪を抑えながら怒鳴る。
「だって温泉って、初めてで……はぁぁ、最高です!」セリーヌは大剣を持ち込もうとして女将に取り上げられたばかりだった。
「湯に剣を持ち込むなっての!」カレンがため息をつく。
「でも、もしロイ様が覗いてきたら……」セリーヌが真顔で言う。
「ロイはそんなことしない!」
「ふふっ……でも覗いたら、その場で忠誠の証として結婚を申し込みます」
「馬鹿じゃないの!?」
女湯は笑いと怒号で賑やかに、男湯は絶望と恐怖で静まり返っていた。
こうして温泉での一幕は、それぞれ全く違う意味で忘れがたい朝となったのであった。
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