表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

63/327

【第62話:決断の重さ】

 祝宴の後、村が静けさに包まれた頃。

 家に集まったのは、ロイ、カレン、ダリオ、そしてユアンだった。


 卓の上に置かれた地図は、ユアンが震える手で描いたものだ。鉛筆の線は乱れていたが、そこに彼が見てきた地獄が刻まれている。


「……あの場所には、まだ子どもがいるんだ」

 ユアンは言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。

「ぼくと同じで……でも、ぼくよりも小さい子ばかりで……。番号をつけられて、“売られる”って……」


 その声は弱々しかったが、焚き火の残り火のように確かな熱を帯びていた。


 ロイは深く息をつき、地図を見つめた。

「……行かないわけにはいかないな」


「私も行く」

 カレンが即座に応じる。その瞳は鋭く、決意に曇りはなかった。

「子どもを商品扱いする連中なんて、絶対に許せない」


 ダリオは腕を組み、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

「……なら俺は村に残る。領主が報復してきたら、この村は守らなきゃなんねぇ。お前らがいない間、ユアンや子どもたちを危険にさらすわけにはいかねぇからな」


 ユアンは驚いたようにダリオを見上げ、それからロイに視線を移した。

「ロイ……カレン……。行くのはすごく、こわいことだと思う。でも……ぼく、見てしまったんだ。泣いてる子や……名前の代わりに番号で呼ばれてる子を。だから……どうか、助けてあげて」


 言葉を終えたユアンは、小さな拳をぎゅっと握りしめた。


 ロイは肩の痛みに顔を歪めながらも、少年の目をしっかりと見返した。

「……分かった。必ず救い出す」


 カレンも口元を引き結び、力強くうなずいた。

「二人で必ず連れ戻すわ」


 ダリオは苦笑しながら二人を見た。

「はぁ……まったく。無茶しやがるな。……けど、お前らならやれるだろうさ。戻ってくるまで、この村は俺が守ってやる」


 決意の輪が、静かに結ばれた。

 こうして、ロイとカレンは領主の館へ向けて歩み出すことになる。


石造りの館の地下。

 湿った空気の中、鉄格子に閉じ込められた子どもたちが身を寄せ合っていた。


「……二十七番、こっちに出ろ」

 鎖を鳴らしながら兵士が命じる。怯えた小さな手が震えながら鉄格子を押し開けた。


「い、いやだ……!」

 幼い声が響く。だが兵士は容赦なく腕をつかみ、床に引きずり出した。

「黙れ。お前の名前はもう要らん。お前は“二十七番”だ」


 泣きじゃくる声が廊下に反響する。

 他の子どもたちは怯えきった目でそれを見つめるしかなかった。


 その光景を見下ろしていたのは、この地を治める小領主――グリフォードだった。

 ふくよかな体を豪奢な衣に包み、金で装飾された杖を持つその男の口元には、冷たい笑みが浮かんでいた。


「見ろ。この子らの眼を。自分では何も選べぬ哀れな瞳だ。だが、それでいい」

 領主の声は低く響いた。

「番号を与え、品定めをすれば、彼らはただの“資産”になる。泣こうが叫ぼうが、契約の文字は消えん。次の市には上客が来る。必ず高値で売れるだろう」


 兵士たちは声を揃えて応じる。

「はっ、領主様!」


 グリフォードはゆっくりと振り返り、部下に命じた。

「抜かりなく準備せよ。……余計な噂は困る。先日の“逃走劇”のことも、村人どもに嗅ぎつかれてはならん。あの小僧――ユアンとか言ったか――あれは手間をかけさせてくれた。ふふ……」


 領主の目が細くなる。

「奴らがまた来るなら、今度は生かしては返さん。その前にとっつかまえてもいいが。」


 冷酷な笑みが、地下牢に重く響いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ