【第62話:決断の重さ】
祝宴の後、村が静けさに包まれた頃。
家に集まったのは、ロイ、カレン、ダリオ、そしてユアンだった。
卓の上に置かれた地図は、ユアンが震える手で描いたものだ。鉛筆の線は乱れていたが、そこに彼が見てきた地獄が刻まれている。
「……あの場所には、まだ子どもがいるんだ」
ユアンは言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
「ぼくと同じで……でも、ぼくよりも小さい子ばかりで……。番号をつけられて、“売られる”って……」
その声は弱々しかったが、焚き火の残り火のように確かな熱を帯びていた。
ロイは深く息をつき、地図を見つめた。
「……行かないわけにはいかないな」
「私も行く」
カレンが即座に応じる。その瞳は鋭く、決意に曇りはなかった。
「子どもを商品扱いする連中なんて、絶対に許せない」
ダリオは腕を組み、しばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……なら俺は村に残る。領主が報復してきたら、この村は守らなきゃなんねぇ。お前らがいない間、ユアンや子どもたちを危険にさらすわけにはいかねぇからな」
ユアンは驚いたようにダリオを見上げ、それからロイに視線を移した。
「ロイ……カレン……。行くのはすごく、こわいことだと思う。でも……ぼく、見てしまったんだ。泣いてる子や……名前の代わりに番号で呼ばれてる子を。だから……どうか、助けてあげて」
言葉を終えたユアンは、小さな拳をぎゅっと握りしめた。
ロイは肩の痛みに顔を歪めながらも、少年の目をしっかりと見返した。
「……分かった。必ず救い出す」
カレンも口元を引き結び、力強くうなずいた。
「二人で必ず連れ戻すわ」
ダリオは苦笑しながら二人を見た。
「はぁ……まったく。無茶しやがるな。……けど、お前らならやれるだろうさ。戻ってくるまで、この村は俺が守ってやる」
決意の輪が、静かに結ばれた。
こうして、ロイとカレンは領主の館へ向けて歩み出すことになる。
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石造りの館の地下。
湿った空気の中、鉄格子に閉じ込められた子どもたちが身を寄せ合っていた。
「……二十七番、こっちに出ろ」
鎖を鳴らしながら兵士が命じる。怯えた小さな手が震えながら鉄格子を押し開けた。
「い、いやだ……!」
幼い声が響く。だが兵士は容赦なく腕をつかみ、床に引きずり出した。
「黙れ。お前の名前はもう要らん。お前は“二十七番”だ」
泣きじゃくる声が廊下に反響する。
他の子どもたちは怯えきった目でそれを見つめるしかなかった。
その光景を見下ろしていたのは、この地を治める小領主――グリフォードだった。
ふくよかな体を豪奢な衣に包み、金で装飾された杖を持つその男の口元には、冷たい笑みが浮かんでいた。
「見ろ。この子らの眼を。自分では何も選べぬ哀れな瞳だ。だが、それでいい」
領主の声は低く響いた。
「番号を与え、品定めをすれば、彼らはただの“資産”になる。泣こうが叫ぼうが、契約の文字は消えん。次の市には上客が来る。必ず高値で売れるだろう」
兵士たちは声を揃えて応じる。
「はっ、領主様!」
グリフォードはゆっくりと振り返り、部下に命じた。
「抜かりなく準備せよ。……余計な噂は困る。先日の“逃走劇”のことも、村人どもに嗅ぎつかれてはならん。あの小僧――ユアンとか言ったか――あれは手間をかけさせてくれた。ふふ……」
領主の目が細くなる。
「奴らがまた来るなら、今度は生かしては返さん。その前にとっつかまえてもいいが。」
冷酷な笑みが、地下牢に重く響いた。
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