【第59話:牢屋の中の男と脱出劇】
冷たい石造りの牢屋。
そこに放り込まれたロイは、鈍く疼く四十肩に顔を歪めながらも、壁にもたれて息を整えていた。
「……ったく、また牢屋かよ。異世界来てから何回目だ、これ」
(あれ?なんか俺、主人公っていうより囮役が多くないか?)
そんな自虐を心の声でこぼしていたその時。
隣の影から、静かな低い声が響いた。
「……新顔か」
鉄格子の奥、同じ牢に一人の男がいた。
まだ若いが、その瞳は真っ直ぐで、鍛えられた体躯からただ者ではない雰囲気が漂う。
「お、おう。俺はロイ。ただの通りすがりの、肩が痛いオジサンだ」
「……肩が痛い?」
「そう、四十肩ってやつだ。だが、それを武器に戦ってる」
「…………」
男は一瞬きょとんとしたが、すぐに真面目な顔で頷いた。
「俺はダリオ。この村の者だ。……実はわざと捕まった」
「わざと?」とロイが眉を上げると、ダリオは小さく続けた。
「奴らは子供を奴隷にしている。中に潜り込み、機を見て助けようと思った。だが……一人では力が足りなかった」
その言葉には不器用だが真剣な響きがあった。
ロイは思わず口を緩めた。
「なるほどな。で、目的は?」
「……ユリアを守るためだ」
その名にロイは「おお」と声を漏らす。
ユリア、ユアンの姉。そして今ロイにほんの少し心を開きかけている女性だ。
(……なんだ?なんか今回の“ヒーロー役”って、このダリオって奴なんじゃないのか?)
ロイは内心ざわざわしながらも、状況を整理する。
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夜。
監視の兵士たちが気を緩め始めたころ、ダリオは低く囁いた。
「今だ。抜け道を知っている。付いてこい」
「よしきた。肩もそろそろ温まってきたしな」
(……四十肩が温まるってなんだよ俺)と自分で突っ込みながら、ロイは立ち上がった。
ダリオは牢の奥の石を器用に動かし、隠された隙間を露わにする。
ロイは感心した。
「おいおい……お前、やるじゃねえか」
「村の古い者から聞いていた。奴らはこの抜け道に気づいていない」
二人は狭い通路を這い進み、やがて施設の裏手に出る。
そこでは、カレンがすでに子供たちを引き連れていた。
「ロイさん!無事だったんですね!」
「おう、そっちは?」
「なんとか子供たちは……」
その時、足音が響いた。
兵士たちが気づき、駆けつけてくる。
「くそっ、ここまでか!」
ダリオが身構える。ロイも肩をぐるぐる回す。
「おいダリオ。お前、強いんだろ?」
「普通の兵士程度なら」
「よし、それで十分だ!」
ロイが前に飛び出し、四十肩を大袈裟に抑えながら叫んだ。
「うおおお! この痛みをくらえッ!」
「な、なんだこいつ!?肩を振り回してくるぞ!」
「くっ……痛そうだ!」
(いや、見てるだけで痛いんだよな俺の技……!)
その隙にダリオが的確に兵士を殴り倒す。
カレンは子供たちを連れて隙を突いて脱出。
乱戦の中、ロイはちらりと横目でダリオを見た。
無骨で、不器用だが、真っ直ぐ。
守るべきもののために立っている姿は、ヒーローそのものだった。
(……ちょっと待て。これ、俺じゃなくてダリオが主人公ポジションじゃねえか!?)
焦りを覚えつつも、ロイは必死に肩を振り回して戦う。
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やがて脱出路に逃げ込み、全員が施設を出ることに成功した。
夜の森を駆け抜けながら、子供たちは泣き笑いでロイやカレン、そしてダリオにしがみつく。
「ありがとう!」
「助かった!」
子供たちの歓声に、ダリオは照れくさそうに頭を掻く。
「……当然のことをしただけだ」
その横顔を見て、ロイはため息を漏らした。
(なんか……今回は俺の“意外な人気”じゃなくて、“ダリオの株急上昇”回じゃねえか……?肩が痛え……)
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こうして脱出は成功。
だがロイの胸には、不思議な違和感が残った。
いつも自分に集まる“主役感”が、今回だけは横に逸れている。
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