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【第6話:おじさん、意外な人気が芽を出す】

 牙オオカミ討伐を終え、俺たちは夕暮れのギルドへ戻ってきた。

 扉を押し開けると、ちょうど受付に――見慣れない女性が立っていた。


 栗色の髪を肩で綺麗に揃え、控えめな清楚さをまとった、落ち着いた雰囲気の受付嬢。

 だが、俺たちに気づいた瞬間、その印象が一気に変わる。


「いらっしゃいませ! 牙オオカミ討伐のご依頼ですね? こちらへどうぞ!」


 ぱぁっと花が咲くみたいな笑顔。

 おいおい、眩しすぎるだろ……! 俺の目、耐えられるか?


 気圧されつつ窓口へ向かうと、俺はなぜか背筋をピンッと伸ばしていた。

 いや、別に見栄張ってるわけじゃないぞ? うん、これは自然現象だ。自律神経の反射とかそういうやつ。



 牙オオカミの討伐証拠を渡すと、彼女は真剣な表情で一つ一つ確認し、数秒後――再び満面の笑みを向けてきた。


「すごいです! 本当に討伐されてますね。牙オオカミは新人には危険すぎる魔獣なんですよ。それを倒すなんて!」


 お、おう……そんなに褒められると逆に怖いんだが。


「いやいや、俺なんか荷物を投げただけで……本当にすごかったのは仲間でして……」


 いつものように謙遜すると、彼女はぴたりと息を呑み、次の瞬間――


 俺の手を両手でぎゅっと握ってきた。


「謙遜しすぎです! 状況をひっくり返す勇気を出したのは、あなたでしょう? その一歩が仲間の力を引き出したんです!」


 ……ちょ、待て待て待て。

 いま俺、異世界に来て初めて「女性に手を握られる」というリアルイベントを発生させてないか?

 これ絶対、訓練されてる。プロだ。プロの笑顔と熱量だ。だが、それでも……。


 なんだ、この胸の奥のモゾモゾは……!?

 ダメだ、俺の四十肩が刺激されて妙に鼓動が速いぞ。いや四十肩関係ないわ!



 そのとき、背後から刺さるような視線が。


「……へぇ~~~~? おじさん、やたら人気ありますねぇ?」


 リリアが口元をイヤらしくゆるめながら、ジト目で俺を見る。

 いや、そんなに伸ばすな“へぇ~”を! 嫌味の熟成期間どれくらいだよ!


 その横でセレナが腕を組み、分析官みたいな顔で頷く。


「……ふむ。お前、意外と人徳があるのかもしれんな。こう、年輪のような深みというか……」


 年輪って! 俺、木なの!? 樹齢いくつ扱いだよ!


 さらにガイルが豪快に笑いながら、俺の肩をガンガン叩く。


「ガハハハ! おっさん、ついにモテ期がやってきたな! ギルドの受付嬢に好かれるとか、主人公補正ってやつか!?」


「やめろ、叩くな! 四十肩が死ぬ! 俺はただの平凡なおじさんだ!」


 ガハハと笑うガイル、にやにやのリリア、妙に真剣なセレナ。

 まるで俺を囲む“おじさん人気観測隊”が発足したみたいだ。やめてくれ。



 一方の受付嬢は、くすっと可愛らしく笑みを浮かべた。


「ふふっ。そんな、謙遜ばかりしなくてもいいんですよ。とても……頼りになりましたから」


 た、頼りになる!? 俺が!?

 いやいや、絶対社交辞令だろ!

 この世界の受付嬢は、冒険者をその気にさせるスキルでも持ってるのか?

 ……持ってそうだな……ギルドスキル「モチベーションブースト」みたいなやつ。

 でも、もし本当にそうだとしても……


 なんだ。なんでこんなに胸が熱いんだ、俺。


 別に恋とかそんな大それた感情じゃないけど……

 なんかこう、久しぶりに「認めてもらえた」感じがして。


 おいおい、やめろ心臓。お前いま現役選手みたいな動きしてるぞ。



「おじさん、顔が赤いよ~? ねぇねぇこれ、もしかして惚れ――」


「言わせん!!」


 リリアの口を慌てて塞ぎ、俺はぶんぶん首を振った。


「ち、違うぞ!? これはその、そう……気温だ! ギルドの中が暑いからだ!」


 いやお前、どんな言い訳だよ。

 季節は初夏だぞ。そこまで暑くねえよ。


 俺の中の理性が全力でツッコミを入れてくるが、もう聞こえないふりをする。


 受付嬢はそんな俺たちのやり取りを、楽しそうに目を細めて見ていた。



 ……まさか、俺。


 この異世界で――

 ほんの、ほんのちょっとだけ――


 モテ始めてる……?


 いやいやいや、落ち着けって!

 ここで調子に乗ったら痛い目を見るやつだ!

 俺の人生経験がそう言ってる!


 ……でも。


 胸が高鳴るのは、止まらなかった。

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