【第6話:おじさん、意外な人気が芽を出す】
牙オオカミ討伐を終え、俺たちは夕暮れのギルドへ戻ってきた。
扉を押し開けると、ちょうど受付に――見慣れない女性が立っていた。
栗色の髪を肩で綺麗に揃え、控えめな清楚さをまとった、落ち着いた雰囲気の受付嬢。
だが、俺たちに気づいた瞬間、その印象が一気に変わる。
「いらっしゃいませ! 牙オオカミ討伐のご依頼ですね? こちらへどうぞ!」
ぱぁっと花が咲くみたいな笑顔。
おいおい、眩しすぎるだろ……! 俺の目、耐えられるか?
気圧されつつ窓口へ向かうと、俺はなぜか背筋をピンッと伸ばしていた。
いや、別に見栄張ってるわけじゃないぞ? うん、これは自然現象だ。自律神経の反射とかそういうやつ。
◇
牙オオカミの討伐証拠を渡すと、彼女は真剣な表情で一つ一つ確認し、数秒後――再び満面の笑みを向けてきた。
「すごいです! 本当に討伐されてますね。牙オオカミは新人には危険すぎる魔獣なんですよ。それを倒すなんて!」
お、おう……そんなに褒められると逆に怖いんだが。
「いやいや、俺なんか荷物を投げただけで……本当にすごかったのは仲間でして……」
いつものように謙遜すると、彼女はぴたりと息を呑み、次の瞬間――
俺の手を両手でぎゅっと握ってきた。
「謙遜しすぎです! 状況をひっくり返す勇気を出したのは、あなたでしょう? その一歩が仲間の力を引き出したんです!」
……ちょ、待て待て待て。
いま俺、異世界に来て初めて「女性に手を握られる」というリアルイベントを発生させてないか?
これ絶対、訓練されてる。プロだ。プロの笑顔と熱量だ。だが、それでも……。
なんだ、この胸の奥のモゾモゾは……!?
ダメだ、俺の四十肩が刺激されて妙に鼓動が速いぞ。いや四十肩関係ないわ!
◇
そのとき、背後から刺さるような視線が。
「……へぇ~~~~? おじさん、やたら人気ありますねぇ?」
リリアが口元をイヤらしくゆるめながら、ジト目で俺を見る。
いや、そんなに伸ばすな“へぇ~”を! 嫌味の熟成期間どれくらいだよ!
その横でセレナが腕を組み、分析官みたいな顔で頷く。
「……ふむ。お前、意外と人徳があるのかもしれんな。こう、年輪のような深みというか……」
年輪って! 俺、木なの!? 樹齢いくつ扱いだよ!
さらにガイルが豪快に笑いながら、俺の肩をガンガン叩く。
「ガハハハ! おっさん、ついにモテ期がやってきたな! ギルドの受付嬢に好かれるとか、主人公補正ってやつか!?」
「やめろ、叩くな! 四十肩が死ぬ! 俺はただの平凡なおじさんだ!」
ガハハと笑うガイル、にやにやのリリア、妙に真剣なセレナ。
まるで俺を囲む“おじさん人気観測隊”が発足したみたいだ。やめてくれ。
◇
一方の受付嬢は、くすっと可愛らしく笑みを浮かべた。
「ふふっ。そんな、謙遜ばかりしなくてもいいんですよ。とても……頼りになりましたから」
た、頼りになる!? 俺が!?
いやいや、絶対社交辞令だろ!
この世界の受付嬢は、冒険者をその気にさせるスキルでも持ってるのか?
……持ってそうだな……ギルドスキル「モチベーションブースト」みたいなやつ。
でも、もし本当にそうだとしても……
なんだ。なんでこんなに胸が熱いんだ、俺。
別に恋とかそんな大それた感情じゃないけど……
なんかこう、久しぶりに「認めてもらえた」感じがして。
おいおい、やめろ心臓。お前いま現役選手みたいな動きしてるぞ。
◇
「おじさん、顔が赤いよ~? ねぇねぇこれ、もしかして惚れ――」
「言わせん!!」
リリアの口を慌てて塞ぎ、俺はぶんぶん首を振った。
「ち、違うぞ!? これはその、そう……気温だ! ギルドの中が暑いからだ!」
いやお前、どんな言い訳だよ。
季節は初夏だぞ。そこまで暑くねえよ。
俺の中の理性が全力でツッコミを入れてくるが、もう聞こえないふりをする。
受付嬢はそんな俺たちのやり取りを、楽しそうに目を細めて見ていた。
◇
……まさか、俺。
この異世界で――
ほんの、ほんのちょっとだけ――
モテ始めてる……?
いやいやいや、落ち着けって!
ここで調子に乗ったら痛い目を見るやつだ!
俺の人生経験がそう言ってる!
……でも。
胸が高鳴るのは、止まらなかった。




