【第57話:施設の中で】
黒々とした石壁の中は、冷たい空気が流れていた。蝋燭の灯りがところどころに揺れ、長い廊下を照らしている。
カレンは影のように走り、物音を殺して柱の影に身を潜めた。兵士たちが見回りに通るが、彼女の存在に気づくことはない。
(ここが奴隷施設……。子供たちはどこに囚われている?)
耳を澄ませば、かすかなすすり泣きがどこかから聞こえてきた。カレンは音を頼りに、地下へと続く階段を見つける。
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一方その頃。
「すいませーん! トイレどこーっ!? 肩が……肩が限界なんですけどぉぉ!」
ロイは堂々と兵士に文句を言いながら、施設の中をうろついていた。
兵士も最初は怒鳴り散らしていたが、あまりにもしつこく「トイレ連呼」するロイにうんざりして、ついに匙を投げる。
「好きにしろ! ただし、勝手に奥へ行くんじゃねぇぞ!」
「おお、ありがとう! ……奥はダメ? でもトイレって奥の方じゃねぇの? くそ、肩が……」
ロイは肩をさすりながら、ちゃっかり廊下を奥へ進んでいく。
(よし……いい感じに誤魔化せたな! 四十肩、ナイスだ!)
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やがて、二人の行く先は同じ場所へと収束していった。
湿った空気の漂う地下牢。鉄格子の奥には、痩せ細った子供たちが寄り添うようにして震えている。ユアンが言っていた仲間たちだ。
「……っ」
カレンの胸に熱いものが込み上げる。
「大丈夫。必ず助け出すから」
彼女が鉄格子に手を伸ばした瞬間――背後から派手な声が響いた。
「おーい! やっぱりトイレは地下にあるんだな! 助かったぜぇ……って、あれ?」
カレンが振り返ると、そこには両手で肩を押さえてうずくまるロイがいた。
「おじさん!? なんでここに!?」
「いやぁ……トイレ探してたら、肩がガクッとなって、そしたらここに!」
「……(やっぱり偶然でここまで来たの? 信じられない……)」
呆れ果てるカレンの横で、子供たちが目を見開く。
「おじさん……助けに来てくれたの?」
「もちろんだとも! 四十肩の、この俺になぁ!」
ロイが胸を張った――その瞬間、階段の上から兵士たちの怒号が響いた。
「侵入者だ! 地下にいるぞ!」
ついに侵入がバレた。
カレンは短剣を抜き、ロイは肩を押さえてにやりと笑った。
「さぁて、トイレのついでに暴れるか!」
「……ほんと、あなたって人は」
地下牢に緊張が走る。次なる戦闘の幕が、切って落とされようとしていた。
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