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【第56話:四十肩と潜入作戦】

 森を抜けると、黒々とした石造りの施設がそびえ立っていた。重たい鉄の門の前には、鎧を着込んだ兵士が二人、無骨な槍を持って立っている。彼らの眼光は鋭く、近づく者を威嚇するようだ。


 その光景を前にして、カレンは短剣に手を添えながら口を開いた。

「正面突破は無理ね。どうする?」


 ロイは自信満々に鼻を鳴らした。

「任せろ。ここは俺の出番だ」


 カレンは冷ややかな視線を向ける。

「……嫌な予感しかしない」


 だがロイは肩をぐるぐる回しながら兵士に向かって歩み出た。


「いってえええええええ!!!」

 突然、ロイは大声をあげて肩を押さえ、地面に転がった。


「な、なんだ!?」

「敵襲か!?」


 慌てて槍を構える兵士たちの前で、ロイはのたうち回りながら叫び続ける。

「肩があああ!! 四十肩があああ!! 俺は死ぬ! 医者! いや、トイレでもいい! 頼む、入れてくれぇぇぇぇ!!」


 兵士たちはぽかんと顔を見合わせた。

「おい……ただの怪しいおっさんじゃないか?」

「こんなときに四十肩だと? ふざけてるのか?」


 兵士の注意が完全にロイに向いた瞬間、カレンの姿はすでに影のように消えていた。門の影をすり抜け、音もなく施設の中へ潜入していく。


(よし、あとはカレンに任せた!)

 ロイは心の中でガッツポーズを決めながら、さらに大げさに転げ回る。


「痛えええ!! 俺はここで果てるのか!? いや、まだ……まだ子供たちを助けなきゃならねぇんだぁぁぁぁ!!!」


 その芝居がかった言葉に、兵士たちは眉をひそめる。

「おい、鬱陶しい! さっさとどっか行け!」

「いやいやいや! トイレ! トイレ貸してくれ!!」

「知らん! うるさい!」


 兵士がロイを追い払おうと押し返した瞬間――。


「ぐおっ! 肩が! 肩がまたあああああ!!!」

 ロイは兵士の腕を巻き込み、わざとらしくもんどりうって転がった。その勢いに押され、兵士の方がバランスを崩し、門の中へ。


「ちょっ……てめぇ!」

 慌てる兵士の後ろで、ロイは図々しく立ち上がる。

「おっ、やった! トイレはこっちか!」


 兵士に腕をつかまれながらも、ロイはしれっと施設の中に押し込まれていった。


(作戦通り……いや、結果オーライだな!)


 こうしてロイもカレンも、別々の経路から奴隷施設へと足を踏み入れるのだった。



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