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【第54話:奴隷施設への道】

 翌朝、村の朝靄が晴れていく中、ロイは宿代わりに借りた小屋の前で肩を回していた。


「うおぉ……! 昨日の戦いでさらに四十肩が……! これも筋トレ代わりだと思えば……いや、やっぱ痛ぇな!」


 その大げさな呻き声に、駆け寄ってきたのはユアンだった。まだ幼さの残る顔に真剣な影を宿している。


「ロイさん……ぼく、言わなきゃいけないことがあるんだ」

「ん? どうした、朝から深刻な顔して」

「奴隷の施設には、まだ仲間の子供たちが捕まってる。ぼくは逃げられたけど、みんなは……」


 ユアンの拳は小刻みに震えていた。


「助けたい。助けたいけど、ぼくじゃ何もできない。行ったらすぐ捕まる。悔しいよ!」


 ロイはユアンの肩に手を置いた。もちろん四十肩じゃない方の腕で。


「ユアン……おっさんに任せろ。おっさんの肩は錆びついてるけどな、まだ子供を守るくらいはできる」

「ロイさん……!」


 そのやり取りを聞いていたユアンの姉、ユリアが歩み寄ってきた。彼女は弟を守るためにずっと気丈に振る舞ってきたが、今は涙がにじんでいた。


「ロイさん、本当に……行くんですか?」

「ああ。約束だ。子供たちを連れ戻す」

「……どうか無理はなさらないでください。あなたは外から来たばかりで、村のことなんて知らないのに……それでも、ありがとうございます」


 ロイは照れくさそうに後頭部をかいた。


「ははっ、まあ“外から来たおっさん”だからこそ、できることもあるだろ。……四十肩以外はな」

「ふふっ……」


 ユリアの笑みはわずかに曇りを晴らす。



 村の門に向かうと、そこに立っていたのは一人の女性――昨夜、ロイを暗殺しかけた張本人。だがロイはその正体をまだ知らない。


「……行くのね」

「おお、カレンさん。見送りか?」

「違う。怪しいよそ者が村を出て、何をしようとしているのか確かめに来ただけ」


 カレンの目は鋭く、まるで剣のようだった。


「子供たちを助けに行く。……奴隷施設にな」

「っ……!」


 一瞬、カレンの目が揺れた。


「馬鹿げてる。そんなの、一人でどうにかできるわけない」

「一人じゃないさ。……この肩もある!」


 ロイは誇らしげに肩をぐるりと回す。――ぎしっ。


「……っ、いっっってぇぇぇぇぇ!!」

「…………」


 無言で呆れ顔を向けるカレン。


 しかしすぐに真剣な顔に戻り、ため息をついた。


「……放っておけない。あんたが突っ走って死んだら、結局子供たちも救えない。だから、私も行く」

「え? 本当か!? そりゃあ心強い! 四十肩の分を補ってくれる仲間が増えるとは!」

「……あなたって本当に、妙に力が抜ける人ね」


 こうしてロイとカレンは、ユアンとユリアに見送られながら村を後にした。



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