【第53話:カレンとの出会い】
夜更け、ロイは妙に眠れなかった。
宴で振る舞われた酒のせいか、はたまた四十肩のズキズキのせいか。
「いってて……くっ、寝返りができねえ。神龍ラグナでも治せねえんだから、この痛みは呪いかよ……」
愚痴りながら村外れをぶらついていると、草原の月明かりに一人の影が浮かび上がった。
――カレン。
昨夜、彼を闇から狙った暗殺者に他ならない。
だが今のロイはそのことを知らない。
カレンは腰に短剣を差し、村を警戒するように佇んでいた。
鋭い視線と凛とした雰囲気。村の娘というよりは兵士のようだ。
「お、おう……夜分にすまねえな。村の人か?」
ロイが声をかけると、カレンは振り返る。
「……あなたこそ、外から来た人間でしょう? こんな時間に何をしているの」
「いや、その、四十肩がな……寝返りするたびに激痛で飛び起きちまうんだ。
だから歩いてたら……って、信じてもらえねえよなあ!」
真顔のカレンは一瞬言葉を失ったが、やがてわずかに口元をゆるめる。
「……四十肩、ね。妙な理由で歩いてるのね」
「そう! 俺の人生最大の宿敵は魔物でもなく、この四十肩だ。
いつか“肩甲骨の剣”でも編み出してやる……!」
痛みに顔を歪めながら肩を回すロイを、カレンはじっと見つめた。
昨夜、闇から仕留め損ねた男と同一人物とは思えない――いや、逆にあまりに隙だらけで怪しすぎる。
「……あなた、怪しい人ではないのね?」
「俺を見て“怪しい”って言うやつは多いが、悪人じゃねえ。むしろ四十肩に苦しむ、ただのオッサンだ」
「……ふふ」
カレンは小さく笑った。ほんのわずか、警戒心が解けた瞬間だった。
「村を歩くなら気をつけて。最近、夜に魔物が近づくことがあるから」
「ああ、助言感謝する。……ん? お前、名前は?」
「……カレン」
短く答えると、彼女は月明かりの下を静かに去っていった。
残されたロイは肩をさすりながら呟く。
「いい娘だな……。でも、なんか影がある感じだ……」
彼はまだ知らない。
彼女こそ、昨夜自分を闇から狙った暗殺者であることを――。
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