【第5話:四十肩おじさん、初めての“大きな戦い”】
ゴブリン退治から一夜明けた朝。俺たちはギルドのカウンター前で新しい依頼を告げられていた。
「森の深部に“牙オオカミ”が現れました。危険度はゴブリンの比じゃありません」
リリアの淡々とした説明に、俺の膝は見事に脱力した。
「おいちょっと待て。俺、この世界に来て三日目なんだが!?」
「日数は関係ありません。魔物は待ってくれませんし」
相変わらずリリアの言葉は容赦がない。
俺は肩を押さえ、現実逃避のため空を見上げた。
(……帰りたい)
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■ 森の気配
森に入ると、空気は冷たく湿っていて、鼻を刺すような獣臭が漂っていた。
ガイルが耳を立て、低い声で告げる。
「……近い。あれは、牙オオカミの気配だ」
その瞬間、茂みが爆ぜ、灰色の巨体が飛び出した。
「グルルルッ!」
体高は人間より高い。牙なんて、俺の前職で使っていたステープラーより大きい。
(比較対象おかしいけどそれどころじゃない!)
「ムリムリムリムリィィィィ!!!!」
叫びながら後退する俺。
だが戦いは待ってくれなかった。
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■ 戦闘開始
ガイルが先手を取って飛び込み、セレナが盾で軌道を封じ、リリアが魔法陣を展開する。
三人の連携は美しく、見惚れるほどだ。
――その直後。
牙オオカミは三人を無視して、まっすぐ俺を狙って突進してきた。
「ひ、ひえぇぇぇ!!!?」
完全に理解した。
コイツ、弱い奴を確実に殺すタイプだ。
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■ おじさん、反射で投げる
迫りくる牙。噛み砕かれる未来がスローモーションで見える。
(ダメだ死ぬ……! いやだ! 肩も上がらないまま死にたくねぇ!!)
反射的に、俺は背負っていた荷物袋をぶん投げた。
ゴンッ!!
袋の中に入っていた保存用の香辛料が爆散し、狼の鼻面を直撃。
「ギャウンッ!!?」
強烈な刺激臭に、牙オオカミは地面を転げ回って悶えだした。
俺は思わず叫ぶ。
「うおおお!? なんか効いたぁぁ!!!」
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■ 反撃のチャンス
「今が好機!」
セレナが一気に距離を詰め、剣を閃かせる。
「《ファイア・ランス》!」
リリアの炎の槍が突き刺さり、
「とどめだああ!!」
ガイルが跳躍して拳を叩き込む。
三人の連携攻撃が決まり、牙オオカミは大地を揺らして倒れ込んだ。
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■ 戦いのあとで
沈黙する森。
やがて三人が俺の方へと振り返る。
リリアが目を瞬いて言った。
「……まさか。チャンスを作ったの、あなたなんですか?」
「いやいやいや、違う! 逃げるついでに投げただけだし!
肩痛くて、むしろ落としただけというか!」
ガイルは大笑いしながら俺の背中を叩いた。
「でも結果的には大正解じゃん! 匂い攻撃とか初めて見たぜ!」
セレナも珍しく口元をほころばせる。
「ふっ……やはり仲間にして正解だったな」
俺は肩をさすりながら、ぼそっと言った。
「……四十肩で荷物が重すぎただけなんだけどな」
三人は一瞬固まって、次の瞬間。
「ぷっ……!」
「またそのオチ!?」
「ハハハハハ!!」
大爆笑。
俺もつい、その輪の中で笑ってしまった。
(……もしかして、俺、本当にこの世界で生きていけるのか?)
そんな小さな希望が、初めて胸に灯った瞬間だった。
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