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【第44話:旅立ち ― セレナの修行へ】

 虚骸軍の大規模侵攻を退けた街は、ようやく落ち着きを取り戻しつつあった。

 負傷した人々は治療を受け、倒壊した家々には修繕の手が入る。子どもたちの笑い声が再び響き始め、街に少しずつ日常が戻ってきていた。


 そんな中、仲間たちは宿に集まり、戦いの振り返りをしていた。


「それにしても、虚骸軍って次から次へと出てくるわよね……」

 シルヴィアが剣を磨きながら呟く。


「でも、この前はぜイヴが一瞬でボスを倒したじゃない。あれは……正直、衝撃だったわ」

 フィオナが溜息をついた。


「うん……。私も、もっと強くならないと……」

 セレナがうつむき、ぎゅっと拳を握った。


 その表情を見ていたエリスが、少しだけ眉を寄せる。

「セレナ、あなた最近ずっと気にしているわね」


「……だって、あの戦いで私、最後まで決定打を与えられなかった。ロイもラグナも、みんなすごいのに、私はまだ足りなくて」


 彼女の声は、悔しさで震えていた。


 ロイは片手で肩をぐるぐる回しながら、苦笑した。

「まあ、俺も四十肩でまだ全力出せてないしな。気にするなって言いたいところだが……セレナ、お前のその気持ちは大事だ」


「ロイ……」


「で? どうする気だ?」

 ロイの問いに、セレナははっきりと答えた。


「――師匠に会いに行きます。あの人なら、私に奥義を授けてくれるはずです」


 その決意に、仲間たちは一瞬沈黙した。

 そしてラグナが、ちいさな姿のまま翼を広げ、静かに言う。


「良い選択だ、セレナ。己を鍛える場を求めるのは戦士の本能。……ロイ、お前も同行してやれ」


「わかった。俺も行くよ。どうせ放っておけないしな」


 セレナは思わず笑みを浮かべた。


「ありがとう、ロイ。それにラグナも」



 翌朝。

 セレナとロイ、そしてラグナは街の門へ向かっていた。


 見送りに来た仲間たちが口々に声をかける。


「セレナ、修行でくたばっちゃだめよ!」

 フィオナがひらひらと手を振る。


「戻ったら、私と模擬戦しなさいな」

 シルヴィアはいつもの調子で挑戦的に微笑んだ。


「セレナ、無理しすぎないでね。……でも、頑張って」

 エリスの言葉は、どこか姉のように温かい。


「みんな……! ありがとう!」

 セレナは目を潤ませながら頭を下げた。


 こうして、三人の新たな旅路が始まった。

 だが、その先で出会うことになる“新しい仲間”を、まだ誰も知らなかった。



ロイ、セレナ、そして小さな姿で飛ぶラグナの三人は、街道を歩いていた。

 木々の葉がざわめき、鳥たちの声が響く。だがその穏やかさの中に、どこか緊張した空気が漂っていた。


「……やっぱり、この辺り。虚骸軍の気配を感じる」

 セレナが眉をひそめる。


「俺も感じてた。嫌な空気だな」

 ロイは四十肩の腕を回しつつ、周囲を警戒した。


 突如、木々の間から黒い影が飛び出してきた。

 それは虚骸軍の斥候兵だった。身体を黒い霧で覆い、槍を構えて突進してくる。


「来たな!」

 ロイが前に出る。


「くっ……!」

 セレナも剣を抜き、応戦する。



 斥候は槍を振るいながら、黒い霧を散布するように辺りに広げた。視界が歪み、音すら籠もって聞こえる。


「視界を封じる霧か!」

 ロイが呻く。


 その瞬間、霧の中から鋭い突きが放たれた。セレナはとっさに身を翻したが、肩をかすめられ、地面に転がった。


「セレナ!」

 ロイが叫ぶ。


 セレナは歯を食いしばり、剣を構え直した。

(私は……弱いままじゃだめ! ここで……!)


 彼女は深く息を吸い込み、剣に魔力を込めた。刃が淡く光を帯び、斥候の槍を弾き返す。


「やるじゃないか!」

 ロイも四十肩をぐるりと回し、腕を振りかぶる。

「――おっさんスマッシュ!」


 拳が霧を切り裂き、斥候の身体を吹き飛ばす。斥候は黒い霧を散らしながら地面に倒れ、そのまま消え去った。



 静けさが戻ると、セレナは膝をつき、悔しそうに唇を噛んだ。

「……やっぱり私、まだ力が足りない。ロイがいなかったら……」


「バカ言え。俺だって四十肩じゃなきゃもうちょい楽できるんだがな」

 ロイは笑って肩を回すが、その声にセレナは首を横に振った。


「でも、私は……もっと強くならないと」


 その真剣な表情を、ラグナはじっと見つめていた。

「お前は伸びる。だからこそ師のもとへ行くのだ。焦るな、セレナ」



◆師匠の庵


 やがて山奥の小道を抜けると、小さな庵が現れた。

 苔むした屋根、静かな庭。そこに一人の老人が立っていた。


「……セレナか。久しいな」

 師匠は長い髭を撫でながら、穏やかに微笑んだ。


「師匠……! 私、奥義を授けてください!」

 セレナは地に膝をつき、必死に願い出た。


「ふむ……その眼差し、以前よりも強いな。だが――」


 老人は後ろを振り返った。そこには、もう一人の若い少女が立っていた。


「師匠、その人がセレナ先輩ですか?」

 少女はぱっと笑顔を見せた。


 元気いっぱいの声、腰には二本の短剣。瞳は好奇心で輝いていた。


「紹介しよう。私の新しい弟子、ミアだ」


「み、ミアです! よろしくお願いします!」

 勢いよく頭を下げる少女に、セレナは目を丸くした。


「し、新しい弟子……!?」


「ふふ。セレナ、お前にとっても良い刺激になるだろう」

 師匠は穏やかに言った。


 こうして、セレナの修行の日々と、新たな仲間との出会いが始まろうとしていた。



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