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【第43話:仮面の徒の影】

 虚骸軍との死闘が終わり、街には奇妙な静けさが漂っていた。

 破壊された家々、泣き崩れる人々、必死に復興に走り回る冒険者たち。その中でロイたちもまた、傷ついた体を抱えながら人々を助けていた。


「……ひとまず、奴らは退いたみたいだな」

 ロイは肩を押さえ、呻きながら呟いた。

 四十肩の鈍痛が、戦いの余韻のように体に残っている。


「でも……ロイさん、あの言葉……」

 エリスが不安げに見上げる。


 ――『いずれ選ぶ時が来る』。


 戦いの最後に姿を消した、仮面の男。ゼイヴ。

 あの冷徹な声音が、耳から離れなかった。



「ねぇ、ロイさん」

 弓を片手にフィオナが口を開く。

「その……ゼイヴって人、仮面の徒って組織の……えっと……」

(なんで私、声が震えてるのよ! 別に心配してるわけじゃないわよ!? ただロイさんが……その、変な方向に行っちゃったら困るから! ……はぁぁ、また意識してるってバレたらどうしよう……!)


「そうだ。仮面の徒……影から世を見守る自称“守護者”だ」

 隣でリリアが眉をひそめる。

「けど、ただの正義の味方ってわけじゃなさそうだね」


 ルカも頷き、羽根を震わせた。

「ゼイヴは……ロイを“鍵”だと言った。あれは何の意味だろう」


 仲間の視線が一斉にロイに集まる。だがロイ自身、答えは持っていなかった。

「……わからねぇ。ただ、奴の目は本気だった。冗談で誘ったわけじゃねぇ」



 一方その頃――。


 漆黒の幕が垂れ込める異空間。

 そこが、仮面の徒の拠点であった。


 ゼイヴは玉座のような椅子に腰掛け、部下たちの報告を黙って聞いていた。

「虚骸軍の軍勢は退けました。しかし……次はより大きな軍が動くかと」


「そうだろうな」

 ゼイヴの声は冷ややかだ。

「やつらの侵攻は、まだ“前哨”に過ぎん。本当に恐るべきは、この世界の奥底から蘇ろうとしている存在だ」


「ですが……なぜロイを勧誘されたのです?」

 仮面をつけた幹部の一人が問う。

「彼はただの転生者に見えますが……」


 ゼイヴの瞳が仮面の奥で光った。

「彼は“鍵”だ。この世界を繋ぐ扉を開く存在……放置するには危険すぎる。だから我らが導かねばならん」


 幹部たちは沈黙した。ゼイヴの言葉は理解できぬまま、だが抗えぬ重みを持っていた。



 再び、街。


 ロイは仲間たちとともに夜空を見上げていた。

 人々はようやく安堵の眠りにつき始めたが、心の奥のざわめきは消えない。


「……鍵、か」

 ロイは呟く。

 その言葉が自分にどう関わるのか、まだ知る由もない。だが、確かに何かが動き出している。


「ロイさん……」

 エリスが寄り添うように隣に立った。

「私は信じています。あなたがどんな存在であっても、必ず……」


「そ、そそ、そうよ!」

 慌てて割り込むフィオナ。

「ロイさんはロイさんだし! だから……だから……(ああもう、なんで私こんなに必死になってるのよっ!)」


 リリアが小さく笑う。

「まったく、フィオナは素直じゃないんだから」


「う、うるさいわね!」


 ほんのひとときの笑い声が、夜に溶けていく。

 だがその裏で――

 虚骸軍は新たな軍勢を整え、仮面の徒の中でもゼイヴのやり方に不満を抱く者たちが蠢き始めていた。


 世界は、確実に大きな転換点へと近づいていた。



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