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【第42話:虚骸軍の再侵攻と仮面の誘い】

 夜空を裂くような轟音が、街に響き渡った。

 黒き瘴気が空を覆い、人々の悲鳴が四方から上がる。

 ――虚骸軍、本格侵攻。


「ロイさんっ! 奴ら、前のときより規模が違います!」

 弓を握るフィオナが叫び、矢を番える手が震える。

(な、なんでよりによって私の矢の届く距離にバケモノが群れてるのよっ! いや落ち着け、ここで決めればロイさんに振り向いてもらえるかもしれないじゃない!)


「エリス、負傷者の治療は任せた!」

「わかりました!」

 聖なる光を掌に宿すエリスが、前線へ飛び出す。


「……くそ、数が多いな」

 ロイは肩をぐるぐると回した。四十肩特有の鈍痛が走る。だが、この痛みを今は“武器”に変えるしかない。


 その時だった。

 黒き軍勢の中央から、ひときわ巨大な影が歩み出た。

 鋼のような肉体、漆黒の角、眼窩には赤い炎。


「人間ごときが、我らに逆らうか……虚骸軍副将軍バルグレオ、この地を滅ぼす」


 その咆哮だけで、大地が揺れた。



「来るぞッ!」

 仲間たちが一斉に武器を構えた。


 矢雨を放つフィオナ、雷を迸らせるリリア、そしてルカの風刃がバルグレオへ襲いかかる。しかし――


「無駄だ」


 炎をまとった巨腕の一振りで、全ての攻撃がかき消された。


「なんだと!?」

「化け物め……!」


 次の瞬間、バルグレオの拳が振り下ろされる。

 ロイは咄嗟に仲間を庇い、肩でその拳を受け止めた。


「ぐ……ッ!!」


 四十肩の痛みが爆発する。しかしその痛みと共に、ロイの体から眩い光が迸った。


「俺の……必殺ッ!! 四十肩インパクトォォォ!!」


 渾身の一撃がバルグレオの胸を貫いた。

 巨体が膝をつき、轟音と共に崩れ落ちる。


「や、やったのか……!?」


 仲間たちが歓喜の声を上げる。だが――


「……クク……まだだ」


 血に濡れたバルグレオが、なお立ち上がった。

 瀕死のはずなのに、凶悪な笑みを浮かべて。


「油断……大敵だ」


 振り下ろされる最後の一撃。ロイは力を使い果たし、もう動けなかった。



 その瞬間だった。


 世界が、止まった。

 風が止み、仲間の声も消え、敵の拳が空中で止まっている。


「……相変わらず、無茶をするな」


 背後から低い声がした。

 仮面を被った男――ゼイヴ。


 彼が指をひとつ鳴らすと、バルグレオの体は音もなく砕け散り、灰となって消え去った。


「しょ、瞬殺……」

 誰もが声を失った。



「甘いな、ロイ」

 ゼイヴは冷ややかな声で言う。

「力を得ても使いこなせねば無意味。お前ほどの器なら、仮面の徒に入れば一流となるだろう」


 その誘いは甘美で、そして恐ろしく真剣だった。


 しかしロイは、苦笑を浮かべて首を振った。

「悪いな。俺は……仲間と歩くって決めてんだ。お前らみたいに影じゃなく、光の下でな」


 ゼイヴの仮面の奥の瞳が、一瞬だけ細められた。

 それが笑みなのか失望なのか、誰にもわからない。


「……いずれ、選ぶ時が来るさ」


 そう言い残し、彼は時を断ち切るように姿を消した。



 静まり返った戦場に、仲間たちの声が戻ってくる。

「ロイさん……」

「すごい、でも……」

「ゼイヴ……やはり恐ろしい存在ですね」


 ロイは天を仰ぎ、痛む肩をさすった。

「……まだ、俺は全然強くなれてねぇな」


 その言葉に仲間たちは、黙って頷いた。


 戦いは終わった。だが、それぞれの胸に残ったのは、勝利の余韻ではなく――

 これから待つ、さらなる試練の予感だった。



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