【第38話:虚骸軍の影とリゼルの選択】
聖なる泉での試練を終えたロイたちは、街への帰還の途についた。
新たな力を得て、肩の痛みすら力へ変えることを学んだロイ。その心は確かな自信に満ちていた。
「ふふ、ロイ。ちょっと頼もしくなったんじゃない?」
エリスが柔らかく笑う。
「やめてくれよ……俺はまだまだ、おじさんだぞ」
ロイは照れ隠しに肩を回すが、案の定「イテテッ」と顔を歪めた。
「うむ、だがその痛みこそ力の源だ。誇るがいい」
ラグナが小さな竜の姿で胸を張る。
「cosθの二乗の誇りですね!」
シルヴィアが謎の数式で同調し、ロイは「違う!」と全力でツッコんだ。
そんな穏やかな道行き――しかし、不意に空気が変わった。
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森の影から、黒い鎧の兵が次々と姿を現した。
その数、二十を超える。
先頭に立つのは、漆黒のマントを翻す女性――虚骸軍幹部リゼル。
「またお前か……!」
ロイが構えると、リゼルは冷徹な瞳で睨み返した。
「命令よ。あなたたちをここで仕留める」
合図と同時に虚骸兵が雪崩のように襲いかかる。
ロイは四十肩を押さえつつ剣を振るい、エリスが回復魔法で支援、シルヴィアは「√(ルート)の導き!」と意味不明な詠唱を始めて敵を混乱させる。
激戦の中、リゼル自身も剣を抜き、ロイへ迫った。
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「くっ……!」
火花を散らす剣戟。ロイは必死に受け止める。
「なぜそこまでして、人を守ろうとする?」
リゼルの声が一瞬、震えた。
「俺はただ……守りたいから守るだけだ!理由なんてねぇよ!」
ロイの叫びに、リゼルの目が揺らぐ。
「理由が……ない、だと……?」
彼女は一瞬剣を止めてしまった。
その隙を突いて虚骸兵の一撃がロイを襲う――
「ロイ!」エリスが叫んだ瞬間。
リゼルが踏み込み、虚骸兵を斬り伏せていた。
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「……私は……何をしている……」
リゼルは震える手で剣を握り直す。
「お前……俺を助けたのか?」
「勘違いするな。私は……ただ、あの軍の鎖に縛られるのがもう嫌なだけだ」
彼女の剣は虚骸兵に向けられ、次々と黒い影を薙ぎ払っていく。
やがて全ての兵が倒れると、静寂が訪れた。
「リゼル……」
「……私はあんたたちに従うわけじゃない。ただ、ここにいれば……自分の答えを見つけられる気がする」
それは、彼女なりの「仲間入り」の言葉だった。
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「ツンデレ加入ってやつか……」
ロイがぼそっと呟くと、エリスは小さく笑い、シルヴィアは「sinθ的に正しいですね!」と頷いた。
「違うっての!」
思わず突っ込みながらも、ロイの心はどこか軽くなっていた。
こうして虚骸軍の幹部リゼルは、奇妙な形でロイたちの旅に加わることになったのだった。
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