表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/327

【第34話:仮面の徒、時を断つ】

その日、遠く離れた交易都市フェルメナは、一瞬で地獄と化した。


 黒い霧と共に押し寄せる虚骸軍。

 先行したのは幹部クラスを含む精鋭部隊で、街の守備兵は抵抗する間もなく倒されていく。冒険者たちでさえ、圧倒的な力の前に次々と崩れ落ちた。


「ハハハ!人間の街など紙細工だ!」

「無駄だ……絶望と共に沈め」


 人々は逃げ惑い、祈り、泣き叫ぶ。


「だ、誰か……誰か助けてくれぇぇ!!」


◆ ◆ ◆


 その時だった。


 鐘楼の上に、黒衣の四つの影が静かに立った。

 スッと夜風に揺れる白い仮面。無言のまま見下ろす異形の姿。


「なんだ……あいつらは……」

「仮面の徒……!ここに……!」


 ざわめく群衆とは対照的に、四人の佇まいはあまりにも静かだった。


◆ ◆ ◆


 最初に動いたのは、仮面の剣士シグラ。


「……一太刀」


 淡々と呟いた次の瞬間。

 幹部クラスの虚骸が踏み出そうとした時には――もう首が地に転がっていた。


 誰も、その斬撃を「見て」いない。


「なっ……!?」

 虚骸軍が動揺し、ざわつく。


◆ ◆ ◆


 続いて前に出たのは、重力の仮面をまとう巨躯の男・ヴァルド。


 彼が掌をゆっくりとかざす。


「沈め」


 低く放たれた一言と共に、大地が悲鳴を上げた。

 足場がひしゃげ、幹部クラスの巨体が地面ごと引きずり込まれる。


「ぐっ……な……動け……!」


 まるで見えない重鎖に捕らわれたように、虚骸は完全に拘束されていた。


◆ ◆ ◆


 続いて、笑顔の仮面を傾けるラヴィア。


「ふふ……踊りなさい」


 甘い囁きが響くと同時に、虚骸兵たちの動きが止まる。

 次の瞬間には、互いを斬りつけ合い、黒い霧と共に崩壊していった。


「や、やめ――やめろ!我らは同胞――ぎゃあああ!」


 悲鳴すら哀れなほど虚ろに響いた。


◆ ◆ ◆


 しかし、その三人をも凌ぐ威圧感を放つ影がひとつ。

 仮面の頂点に立つ男――ゼイヴが、静かに前へ出る。


「時は……止まる」


 その言葉と共に、世界が凍りついた。


 人も、虚骸も、剣閃も、燃え上がる炎さえも。

 全てが沈黙し、固まる。


 動いているのは、仮面の徒だけ。


 ゼイヴは静止した虚骸幹部の胸に、ゆっくりと指先を置いた。


「……ここまでだ」


 指が離れた瞬間、世界が再び動き出し――

 幹部の胸から黒い血が噴き出す。


「……な……にが……おこ……」


 断末魔を残し、巨体は崩れ落ちた。


◆ ◆ ◆


 圧倒的――。


 それ以外に言葉はなかった。

 呆然とした沈黙が街を包み、やがて歓声が爆発する。


「仮面の徒だ!あの人たちが救ってくれたんだ!」

「万歳!仮面の徒!!」


 だが、ゼイヴは群衆に背を向け、冷たく告げる。


「歓喜は不要。秩序は守られるべきもの……それだけだ」


 四つの影は夜霧へ溶けるように消え、後には静寂だけが残った。


◆ ◆ ◆


 薄暗い遺跡。

 仮面の徒が再び一堂に集う。


 ゼイヴの仮面が、鋭くクルヴァを向いた。


「……本当に街を襲ったのか?」


 クルヴァは舌打ちし、肩をすくめた。


「……ちょっと力を試してみたかっただけだよ。まあ、四十肩のおじさんに邪魔されたがな」


 シグラが剣に手をかける。


「……勝手な侵攻は、我らの正義に反する」


 刃が抜かれようとしたとき、ゼイヴが前に出た。


「クルヴァ。お前は――仮面の徒失格だ」


「う、うわぁぁぁぁ!!」


 クルヴァは空間をねじ曲げ、ゼイヴを襲う。

 他の仮面の徒が動こうとするが、ゼイヴが静かに制した。


「……そのままでいい」


「気に食わなかったんだよ、その余裕が!空間を歪められる俺に攻撃は通らねえ!死ねえぇ!」


 クルヴァの全力が、ねじれた空間ごとゼイヴを叩き潰そうとする――が。


 ゼイヴは一歩も動かず、するりと避けていた。


「な、なんで……!?空間は俺のものだぞ、なぜ……避けられる……!」


 クルヴァの視界が――反転する。


「…………え」


 次の瞬間。

 ゼイヴの一太刀が、クルヴァの首を断っていた。


「時は空間をも包含する。……正義なき者は不要だ」


 仮面が静かに伏せられる。

 クルヴァの身体は、音もなく崩れ落ちていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ