【第32話:帰還と神龍さま大騒動】
森の陰が遠ざかり、街の石畳が見えてきたとき――ロイは思わず深く息を吐いた。
「帰ってきた……生きて……生きてる……!」
ルカはやたら神妙な顔で空を仰いだ。
「マジで一回死んだと思ったぞ……ロイ、お前よく四十肩であの状況やり切ったな」
「いや、その四十肩が一番の敵だったまであるからな……」
エリスは胸に手を当て、安堵の笑みを見せた。
「でも、ロイさん。新しい“仲間”まで増えましたし……結果的には大きな一歩ですよ」
その“仲間”が、ロイの肩の上でふんぞり返る。
「ふぉっふぉっふぉ! 人間どもよ、余こそが神龍ラグナであるぞ!」
小さいのに、声と態度は妙にデカい。
(……なんで俺の肩でドヤってんだこいつ。体重も地味にあるし)
街の門番が目を丸くし、子どもたちがワッと集まった。
「ちっちゃい龍だー!」「すげぇ!」「ロイさん、ヒーローじゃん!」
「いやいやいや! 俺はただの四十肩のオッサンだって!」
「四十肩に龍が憑くわけないじゃないですか!」
「確かに!」
「四十肩なのに強いって逆に凄い!」
(なんで俺の四十肩がこんな大勢の前で晒されるんだ……俺の尊厳……)
◆ ◆ ◆
ギルドに戻ると、まず反応したのはティナだった。
「わぁぁ……! 本当に龍さんがいる……!」
ティナは両手を胸の前で組み、目をキラキラさせる。
「小さいのに、すっごい力を感じます……ロイさん、やっぱりすごい人なんですね」
「いや、違う。全然違う。俺はすごくない。たまたま肩が痛くて……」
「肩が痛いのに契約できるなんて、逆にすごいです!」
「そういう褒められ方は望んでないんだよなぁ!?」
ティナのほんわかオーラが広がった瞬間、背後から三つの殺気(?)が走った。
セレナ、フィオナ、ミーナ――ロイ争奪戦線の面々。
(……またティナがロイに近づいてるわね)
セレナの瞳が細く光る。
(なんなのよ……! ロイを“すごい”って連呼して……! 私だってずっと支えてきたのに!)
フィオナは胸元の布を握りしめ、内心大荒れ。
(受付嬢として落ち着かなきゃ……でも負けられません。プロの誇りにかけて……!)
ミーナは笑顔を保ちつつ、拳をぎゅっと握った。
(あああああ……やめて、その視線のバチバチ……! おじさんの精神が壊れる……!)
◆ ◆ ◆
そのタイミングで、ラグナが“やらかした”。
「余が選んだのはロイという男! つまり余はロイの伴侶のような存在よ!」
「伴侶って言うな!!」
「えっ……?」
「ロ、ロイさん……!?」
「伴侶……?」
「ロイさんの……伴……?」
女性陣の顔が、一斉に固まった。
次の瞬間。
勝手に静電気でも走ったかのように、四人の間にバチバチと緊張の光が走る。
「……神龍さま、詳しく聞かせていただけます?」
「ロイの……伴侶ってどういう意味ですか……?」
「ロイさんを選んだ理由……ぜひ伺いたいですね?」
「ロイさん……説明、お願いしますよね?」
(おいおいおいおい!! なんで俺が尋問されてるんだよ!?)
ロイの胃がキュッと縮む音がした。
「ラグナ! 頼むから黙っててくれぇぇぇぇぇ!!」
「ふぉっふぉ、照れるでないわ、ロイよ」
「そういうんじゃねぇぇぇぇ!!!」
ギルド中にロイの悲鳴が響き、
英雄の帰還は見事にドタバタ劇へと変貌したのだった。
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