【第29話:虚骸軍幹部との邂逅】
黒い甲冑の巨影が、崩れた街路の中央に立っていた。
瓦礫、悲鳴、霧――その中で、その存在だけが異様なほど輪郭を保っている。
「……ようやく見つけた。標的は貴様――ロイ」
鉄を削るような声が戦場に響く。
虚骸軍幹部・ギース。
強者の余裕を纏ったその視線は、最初からロイだけを射抜いていた。
「いやいや……おじさんを指名してどうすんだよ。もっと主人公っぽいやつ狙えよ……」
ロイは苦笑しながら剣を握り直し、無意識に肩を回す。
――ギギギッ。
「いっっったぁ……! 今のは“ギース戦仕様”の痛みだわ……!」
「そんな分類あるんですか!?」エリスが即ツッコミ。
額に汗が滲むロイの前で、ギースがゆっくりと腕を上げた。
すると虚骸兵の群れが、一斉に動き出し三人を包囲する。
「来るぞ、ロイ!」
ルカは鳥の姿へ変身し、翼を大きく広げて空へ舞い上がった。
「ルカ、援護を頼む! エリス、結界を!」
「はいっ!」
エリスの光が広がり、逃げ惑う市民を優しく包み込む。
その眩さの上空を、ルカが風を切りながら駆け抜けた。
「うりゃああああっ!」
鋭い爪が弧を描き、虚骸兵の列をまとめて斬り裂く。
だが、ギースは微動だにしない。
「雑兵では足りぬ。……直接斬るとしよう」
黒い大剣を抜き、音もなく距離を詰め――
次の瞬間、ロイへと一閃。
「うおっ、速っ!?」
ロイは反射的に剣を構え、衝撃を受け止めた。
――ゴガァァンッ!!
大剣と剣がぶつかり合い、地面が割れる。
ロイの全身が軋み、肩には電撃のような激痛が走った。
「っぐぁ……! 肩が、肩が死ぬ……っ!!」
※この男、戦闘中なのに四十肩。
「ロイさん! 無理ですってば!」
「いや、無理してもらわないと困るのはこっちだろ……!」ルカが空から叫ぶ。
ギースは表情一つ変えず、剣にさらに力を込めた。
「抵抗は無駄だ。貴様には、“鍵”として役目を果たしてもらう」
「鍵!? 俺が? いやいやいや、鍵ならもっとイケメンとか使えよ!」
「ロイさん自分で言いましたね!?」エリスが素で驚いた。
その時だった。
ロイの肩に、これまで以上の痛みが走る――
いや、“痛み”というより、“何かが溢れ出す感覚”だった。
「――ッ……!? く、来る……! これは来るぞ……!」
「何がですか!?」
「四十肩……第二形態ッ!!」
ロイが力んだ瞬間、剣から炎のような衝撃が奔った。
爆ぜる衝撃波。
ギースの大剣でさえ後方へ押し返され、甲冑がきしむ音が響く。
「……ほう。今のは……」
エリスは目を丸くし、ルカは空中で固まった。
「ロイ、お前……肩の痛みで奥義出すのやめろ!」
「俺だってやめたいよ! 痛いんだよ! ずっと痛いんだよ!!」
ロイの剣は微かに明滅し、まだ余波が残っている。
(……まさか、本当に“力”が?
四十肩のメカニズムってどうなってるんだ……?)
当の本人が一番混乱していた。
ギースは一歩下がり、満足げに頷いた。
「やはり“鍵”はお前……。主の読みは正しかった」
そして黒い笛を口に当てる。
――ヒュウウウ……
耳に残る不快な旋律が響き、虚骸兵は次々と霧へ溶けていった。
ギース自身も黒煙に包まれ、ロイを見つめながら消えていく。
「覚悟しておけ。ロイ。次は“解放”の時だ」
最後の言葉だけが、重く残った。
◆ ◆ ◆
瓦礫と沈黙だけが残された街で、三人が立ち尽くす。
「ロイさん……今の、本当にあなたの力なんですか……?」
「いや、俺が知りたいわ……なんだよ四十肩解放って……」
ロイはへたり込み、肩を押さえた。
痛みはひどい。だが、それ以上に――
胸の奥に、得体の知れない不安が膨らんでいく。
(虚骸軍は……俺を“鍵”って呼んだ。
四十肩と同時に現れる力……
まさか……俺の身体、どうなってんだ……?)
ルカがゆっくりと降りてくる。
「ロイ……お前、本当にただのおっさんじゃねぇぞ」
「いや……ただのおっさんでいたいんだよ……」
ロイは笑ってみせたが、その表情はどこか弱々しかった。
吹き抜ける夜風が、三人の影を伸ばしていく。
「……俺は、一体……何者なんだ……?」
その呟きだけが、廃墟に虚しく響いた。
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