【第28話:隣町の待ち伏せ】
朝の街の広場。
旅立ちの準備を済ませたロイは、荷物を背負いながら仲間たちに囲まれていた。
昨晩、虚骸軍の黒煙が“西”から立ち上ったという報告を受け、急ぎ偵察に行くことになったのだ。
「……本当に三人だけで行くの?」
セレナが腕を組み、納得いかないという顔でロイの前に立ちはだかる。
「大人数だと目立つしな。偵察は少数精鋭だ」
ロイは言いながら肩を押さえた。「……いてて。ほら、四十肩だし」
「その理由、説得力マイナスなんですが?」ミーナが冷静にツッコむ。
(ロイさんが行くなら……私も一緒に……! ロイさんと二人旅……! いや三人でもいい……!)
フィオナは心の声を爆発させていた。
「声に出てるからな」
ガイルが後ろでぼそっと突っ込むが、フィオナは聞こえていない。
なんとも複雑な空気のまま、残留組は見送りをすることになった。
「気をつけてくださいね、ロイさん……無茶しちゃダメです……」
ティナが不安げに袖をつまむ。
「大丈夫だって。無茶したくても四十肩が止めてくれるしな」
「いや、それ戦えないってことですよね!?」
エリスが全力でツッコミを入れる。
ルカは翼をぱたぱたさせながら笑った。
「まあ、あたしとエリスがついてるんだ。おじさん、死にはしないって」
「“死にはしない”がもうフラグなんだよ……!」
半ば笑い、半ば心配しながら、仲間たちは三人を見送った。
こうして――
ロイ、ルカ、エリスの“三人だけ”の偵察行が始まった。
◆ ◆ ◆
街道はのどかそのものだった。鳥の声、晴れた空、草原の風。
「……虚骸軍の気配なんてどこにもねえな」
ロイは肩をぐりぐり回しながら歩く。
「緊張感……なさすぎません?」
エリスが少し呆れたように言う。
「まあまあ。ロイのそれがデフォだから」
ルカが笑いながら空を飛ぶ。
「いや、もうちょい敬意を持ってくれよ……俺、みんなの命を預かってるんだぞ……?
見た目おじさんだけど、中身もちょっとおじさんだけど……!」
「全部おじさんじゃないですか」
エリスの冷静な指摘が刺さる。
そんなやりとりをしつつ、三人は西の町に到着。
市場は活気に満ち、子どもたちの笑い声が響いていた。
本当に、この町に“虚骸軍の影”があるのか――そう思えるほどに。
「まずは情報屋に……っと、いてて……肩がビンッて来た……」
ロイが呻く。
「四十肩を予兆スキルみたいに扱うのやめてもらえません?」
エリスが眉を寄せる。
そんな瞬間だった。
――ドゴォォォォンッ!!
外壁が爆発し、黒い霧が町中に流れこむ。
悲鳴。走る人々。砕け散る建物。
「ど、どうして……!」エリスが震える。
「やべぇ、待ち伏せだ!」
ルカが鳥の姿に変わり、一気に上空へ。
黒い霧をまとった虚骸兵たちが、整然と街を踏み荒らしながら――
一直線にロイへ向かって突撃してきていた。
「おいおいおい!!
なに俺だけピンポイントで狙われてんだよ!?
おじさん、そんな目立つことしたっけ!?」
「しましたよ! 昨日も一昨日もその前も!!」
エリスが全力で叫ぶ。
「……そうだった……!」
ロイは剣を抜き、肩の悲鳴を押さえ込みながら構えた。
「エリス、市民を守れ! ルカ、上から状況を!」
「はいっ!」
エリスは震える手で光の結界を展開し、人々を守る光壁を作る。
「ロイ、敵の動きが変だ! 完全にお前狙いだ!」
ルカが警告を飛ばす。
「わかってる! ってか、なんでだよ!!
俺そんなに偉そうにしてないぞ!?
むしろ肩のせいで控えめな人生なんだけど!?」
自虐で涙目になりながら剣を振るロイ。
だが、虚骸軍が一瞬割れた。
霧を切り裂いて現れたのは――
漆黒の甲冑に包まれた巨影。
圧倒的な威圧感が、戦場を静寂で染め上げた。
「……見つけたぞ」
低く、地鳴りのような声が響く。
甲冑の中の赤い光が、ロイだけを見据えていた。
「標的は――貴様だ、ロイ」
「いやいやいやいや!?
俺!? ピンポイント!?
もっと強そうな奴他にいるだろ!?
ルカとかエリスとか!?」
「ひどっ!?」
「ひどいです!?」
二人が同時に抗議。
しかし虚骸将はさらに一歩前に進み――黒い霧が爆ぜた。
「……なぜ、俺なんだ……?」
ロイは剣を握りしめたまま、思わず問う。
虚骸将の口元が、甲冑の奥でかすかに歪む。
「貴様には……“特別な価値”がある」
「俺に!?
価値!?
四十肩と薄い財布しかないぞ!?」
「現実を自分で追い討ちするのやめたら!?」
エリスが悲鳴混じりに叫ぶ。
その次の瞬間――
黒霧の軍勢が、ロイめがけて一斉に襲いかかった。
◆ ◆ ◆
そして、戦場は地獄と化した。
ロイ、エリス、ルカの三人は、
“虚骸軍によるロイへの追撃”という異常事態に巻き込まれていく――。
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