【第27話:虚骸軍の影】
街に戻ったロイは、朝から子どもたちに四方八方から取り囲まれていた。
「ロイおじちゃーん!」
「昨日のバケモノ倒したんでしょ!?」
「はいこれ! お礼のリンゴあげる!」
「ロ、ロイおじさんって言うな、せめて“ロイさん”で――」
と抗議する間もなく、子どもたちは次の質問を矢継ぎ早に浴びせてくる。
「魔獣の弱点教えて!」
「四十肩って強いの!?」
「おじさんなのにすごいね!」
「“なのに”って言うなぁぁぁぁ!」
そんなロイの悲痛な叫びを、セレナは肘でつつきながら笑っていた。
「ふふっ。おじさん呼ばわりされて、まんざらでもなさそうじゃない?」
「いや、全然そんなことないからな!? 心のHPめっちゃ削れてるからな!?」
ロイがジタバタしている横で、フィオナは腕に弓を抱え、顔を真っ赤にして叫んでいた。
(またセレナと笑ってる……! また隣に立ってる……!
ロイさんの横に立つのは私よ! 今日こそ、今日こそアピールタイムを――!)
「フィオナさん、顔赤いですけど……大丈夫ですか?」
エリスが心配そうに覗き込む。
「だ、だだ大丈夫だからっ!!」
ほっぺをパンッと叩くフィオナ。しかし心の声は暴走中。
(ロイさんに褒められたら……私、今日帰れないかも……!!)
「おい、落ち着け。色々漏れてる」
後ろでガイルが呆れていた。
◆ ◆ ◆
そのときだった。
――ズゥゥゥン……ッ!
大地が揺れ、空が黒い霧に覆われる。
昼の陽光がまるで幕を引かれたように消え去った。
「な、なんだ……!?」
「いやああッ! 空が黒い!」
市民が悲鳴を上げる中、ルカが鳥の姿に変身して空へ急上昇。
「…………ややこしいのが来たッ!!」
ルカの絶叫とともに、黒炎をまとった巨人が霧の裂け目を割って出現した。
――虚骸将。
続いて、その影から漆黒の双剣を携えた女戦士がゆっくりと歩み出る。
「私は、虚骸将リゼル。
この街を守護する者たちを……排除する」
感情のない冷たい声。
同時に、炎の爆風が街を包み、大通りの舗装が吹き飛ぶ。
「くるぞ!」セレナが剣を構える。
「ロイ、下がらないで!」リリアが詠唱を始める。
「ぐわっはっ! 久しぶりに殴りがいのある敵だな!」ガイルが拳を鳴らす。
◆ ◆ ◆
「くらえぇぇぇぇっ!!」
空中からルカが急降下し、巨大な風刃が黒炎を切り裂いた。
その一瞬の隙へ――フィオナの矢が放たれる。
(見ててロイさん……! この矢で、私の想いを貫くのよ!!)
「危ない! お前の想いは別方向で危ない!」
ガイルが横で全力ツッコミ。
だが矢はリゼルに弾かれ、逆に高速の斬撃がフィオナへ跳ぶ――。
「フィオナ、下がれ!!」
セレナが割り込み、剣で受け止める。
火花と風圧が弾け、二人の足が石畳を削る。
「……悪くない腕だ」リゼルが呟く。
その後方では、ヴァルゴスの拳がガイルに直撃し、ガイルが吹き飛ぶ。
「ぐへっ!! たっのしぃぃぃッ!!」
「楽しんでる場合か!!」
ロイが叫んだ瞬間――激痛が肩を襲った。
「ぐああああっ!! 四十肩ぁぁぁぁ!!」
痛みに耐えながらも剣を振り抜く。
狙いは外れ、地面を派手に割ったが――割れた石が飛び散り、結果的にリゼルの足元を崩す。
「……っ!」
その一瞬、セレナの斬撃、ガイルの拳、リリアの雷撃が同時に叩き込まれた。
重撃を受けたリゼルは双剣を構え直し、
「……撤退する。ヴァルゴス」
「……承知」
黒炎と霧に包まれ、二体の虚骸将は消えた。
◆ ◆ ◆
戦闘が終わり、仲間たちは息を整える。
エリスは震える手で、負傷した市民に癒しの光を放っていた。
「大丈夫です……すぐ治ります……女神よ、この者に癒しを……」
市民たちは次々に涙を流す。
「ありがとう……!」
「あんたたちがいてくれてよかった!」
すると空気がふっと変わった。
「ロイ様、バンザーイ!」
「勇者だ! おじさん勇者だ!」
「ロイおじちゃーん! かっこよかったー!」
「ま、待て落ち着け! 俺はただの――」
「「「おじさんヒーロー!!!」」」
子どもたちがロイにしがみつき、女性たちが花束を持って駆け寄り、商人が果物を積み上げてくる。
「な、なんだこの地獄はぁ……!?!」
顔を青ざめさせるロイの横で、仲間たちの表情もそれぞれ複雑だ。
セレナ「……ふん。モテモテじゃない」
エリス「やっぱりロイさんは……すごい……でも……でもっ……!」
フィオナ(ロイさんは私を選ぶ運命なのよ!! ほら今すぐ私を抱きしめ――)
ガイル「声に出てるぞ」
ルカ「……また濃いの増えた」
そして最後に――ミーナが駆けつける。
「ロイさんっ! 無事でよかった……!
街を救うなんて……やっぱりロイさんは特別な人です!」
女性陣の空気がピキッと凍りつく。
セレナ「ロイ、何人くどいた?」
フィオナ(こ、殺し合い……!? 私、負けないッ……!!)
エリス「ロイさんは……私が一番、支えます……!」
ルカ「また修羅場かよ……」
ロイは天を仰いだ。
「俺は……肩を治して……静かに暮らしたいだけなんだぁぁぁ!!」
しかし街は歓声でいっぱいだった。
その様子を、屋根の上から静かに眺めている影がある。
――マーヴォだ。
「英雄は英雄らしく、愛されていればいい……
そして、人気が崩れる瞬間が……一番面白い」
月光に照らされたその笑みは、不気味に歪んでいた。
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