【第25話:聖女の祈りとおじさんの四十肩】
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◆ラーナの町、炎に呑まれる
ロイとルカが駆けつけたラーナの町は、すでに火柱と黒煙に包まれていた。
崩れた家々の間で、赤い炎が獣のように吠え、焦げた風が荒れ狂う。
「ひどい……こんなの……」
ルカが息を呑む。
その前に――ひとり、異様な影がゆらりと立っていた。
「ようこそ、余所者ども。俺はクルヴァ様に仕える《歪面》バルドだ」
ひび割れた仮面。歪んだ輪郭。
彼が指を一振りすると、建物がまるで粘土のようにぐにゃりと曲がり、地面までも波打った。
「なっ……地面が生きてるみたいだぞ!?クルヴァと同じ……空間をねじる力!」
ルカは翼を広げ、鳥の姿で上空から突撃。
だが――
「甘いな」
空気そのものがひしゃげ、翼が弾き飛ばされた。
「きゃっ……!」
「ルカッ!」
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◆崩れた礼拝堂と聖女
崩落した礼拝堂の奥から、微かな呻き声が聞こえた。
「た、助けて……お願い……」
急ぎ駆け寄ると、鉄の檻の中に白いローブの女性。
金髪が煤で汚れながらも聖なる輝きを失っていない。
「私は……聖女エリス……どうか……」
「聖女……!?」
ロイは思わずまじまじと見つめた。
バルドは鼻で笑う。
「こいつの癒しの力は貴重だ。捕まえておけば、俺たちは不死身。渡す気などない」
怒りがロイの胸を熱くした。
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◆四十肩の反撃(物理)
「くそっ……こうなったら……!」
ロイは肩を回した――その瞬間。
「ぐわぁぁぁぁあああッ!!?」
四十肩の痛みが炸裂し、思わず天に響く絶叫を放つ。
だがその咆哮が衝撃となって広がり、バルドの空間の歪みを一気に吹き飛ばした。
「な、なにぃ!? その力……ただの悲鳴では……ない……!」
「いや悲鳴だッ! でも四十肩を侮るなッ!」
ロイの肩は死ぬほど痛い。
だが、見た目だけは英雄じみてしまっている。
ルカが顔を赤くして叫ぶ。
「ちょ、ちょっと……今日のおじさん……なんか……カッコいいんだけど!?」
「だからおじさん言うな!!」
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◆反撃の一撃と仮面の崩壊
空気の歪みが晴れた一瞬の隙に、ルカが再び空へと舞い上がる。
「これで終わりよッ!」
鋭い爪撃がバルドの仮面を叩き割った。
ひしゃげた仮面の下、醜く歪んだ本性が露わになる。
「ぎィィッ……しまっ……!」
そこへロイが全力の拳を叩き込む。
「うりゃあああああッ!!」
バルドは悲鳴を上げ、地面に沈んだ。
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◆聖女の癒しと残酷な真実
鉄の檻を破ると、聖女エリスは涙を浮かべつつ微笑んだ。
「助けてくださって……本当に……ありがとう……」
そして、彼女の両手から白い光があふれ出す。
柔らかな光がロイとルカを包み、傷が嘘のように塞がっていった。
「す、すごい……体が軽い……!」
ルカは驚いて肩を回す。
しかしロイだけ――肩を押さえたままだった。
「……あれ? 俺の肩だけ治ってないんだが?」
エリスは申し訳なさそうに目を伏せる。
「その……四十肩は“病気”や“怪我”ではなく……“加齢”ですので……癒しの対象外で……」
「なんだとぉおおおおお!!!?」
崩れた町に、ロイの絶叫が響き渡った。
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◆新たな仲間と、しつこい四十肩
エリスは深く頭を下げる。
「命を救ってくださった皆さま……どうか私も同行させてください。
力は弱いですが……癒しで支えになります」
ロイは驚きつつも頷く。
ルカはなぜか視線をそらしながらぼそりと言った。
「……いいんじゃない? おじさん、すぐ倒れるし……」
「言うなって言ってるだろ!」
町の炎はようやく収まりつつあった。
だがロイの肩だけは――頑固に、しつこく、痛み続けていた。
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