【第22話:温泉街に潜む奇人】
湯けむりがふわりと舞い、活気に満ちた温泉街のメイン通り。
観光客の笑い声、立ち並ぶ土産屋、焼き団子の甘い香り――
(こういう普通の旅、最高なんだよな……トラブルが起きなければ、の話だが)
「きゃーっ! 見て! ロイさんだわ!」
「この前の魔物討伐の英雄よ!」
その瞬間、街中の視線がロイに集中し、拍手喝采が巻き起こる。
「な、なんでこうなるんだ……俺はただ温泉で肩を休めに来ただけなのに……」
(英雄ポイント貯めるつもりゼロなんだけど!?)
セレナは誇らしげに胸を張る。
「英雄は注目されて当然です! ロイ、堂々としていなさい」
(お前は堂々しすぎだろ……俺のメンタルHPは常に赤ゲージなんだぞ)
ティナはロイの腕にぴたっと密着し、にっこり。
「人気者ロイ~! もっとアピールしよっ!」
(アピールして困るの俺だけだから!! そしてティナ腕組む角度えぐい!)
フィオナは顔を真っ赤にしながら横歩き。
(やばいやばい! 人前でロイと距離近いとかっ……! でもちょっと嬉しい……けど死ぬ!)
(頼むからそのまま倒れないでくれ……俺まで罪悪感で死ぬ)
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■ 奇妙な悲鳴と、空飛ぶ巨大湯桶
と、そこへ――
「きゃああああっ!」
通りの先で悲鳴。
見れば、巨大な温泉の湯桶が空中にふわりと浮かび上がっている。
(いや待て、なんで桶が浮く? 物理どこ行った?)
桶の影から、ひょろりと不気味な男が姿を現した。
異様に細長い手足、ギラつく目。
「クク……英雄様の人気、試してみたいねえ。
信頼ってのは、どれほど脆いか――実験させてもらおうかねぇ?」
その男――マーヴォが指を鳴らした瞬間、
巨大桶が轟音を立てて観光客めがけて落下!
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■ ロイ、四十肩で逆襲する
「おい!? あの桶マジでやばいぞ! あいつこの前の奇人か!」
ロイは反射的に走り出した。
――が。
ビキィッ!!!
「ぎゃあああああ!! 今!? 今なのか四十肩ぁぁぁ!!」
(なんでピンポイントで痛むんだよ!? 俺の肩だけ敵陣営か!?)
肩の激痛で片膝をつくロイ。
だが――その痛みを逆利用し、腕を思い切り振り抜いた。
「うおおおおおおおっ!! 四十肩スイーーーーング!!!」
バゴォォォン!!
痛みMAXの衝撃が波となり、空中の桶を粉砕!
砕け散った木片と湯しぶきが光を反射し、虹ができた。
「すげぇぇぇ!!」
「おじさんかっこよすぎ!!」
「今の技なに!?」
(いや技じゃねえよ!? 肩痛いだけだよ!?)
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■ 奇人マーヴォ、怪しい言葉を残し退散
崩れた桶の破片の中、マーヴォはにたりと笑った。
「痛みを力に変える……ふふ、面白い。
でもねぇ英雄さん、痛みは積み重なれば毒にもなるんだよ?」
そう言うと、観客の隙間に紛れ、霧のように消えた。
「待ちなさい!」
セレナが剣を抜き追いかけるが、すでに姿はない。
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■ 英雄扱いにうんざりするロイ
「ロイさん、最高ーーー!」
「英雄ロイ!英雄ロイ!」
(やめてくれぇぇぇ! 肩が痛いだけの一般おじさんなんだ俺は!!)
ティナが目を輝かせる。
「ロイ、すっごくかっこよかった!」
セレナも珍しく赤面し、ぽつり。
「……否定できないわね。今のは……本当に素敵だった」
(なんでそんな正面から褒めてくるんだよ! 照れるだろ!)
フィオナは胸をドキドキさせながら。
(なにこの雰囲気!? みんな言ってるのに私だけ何も言えない!
いやでも“かっこいい”とか言ったら死ぬぅぅぅ!!)
(フィオナ、顔が爆発寸前だぞ……?)
ガイルがロイの肩をバンバン叩き――
「おっちゃん! やっぱ最強だな!」
「いでででで!! 肩!! 肩ァァァ!!」
リリアは純粋な瞳で。
「ロイ……本当にすごいです。尊敬します」
(この子だけは癒しだ……心が洗われる……)
完全に囲まれ、ロイは悲鳴をあげる。
「だから俺はただ肩が痛いんだってーーー!!」
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■ 屋根の上で、影は笑う
その頃。
温泉街の屋根の上で、マーヴォが月に照らされながら笑っていた。
「四十肩であれだけ動けるなら……本気を出したらどうなるんだろうねぇ。
ゼイヴ様に報告しなきゃ……“四十肩の英雄”の存在を」
湯けむりの裏で、奇人の影はじわりと広がり続けていた。
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