【第16話:肩に宿る力】
街はまるで祭りの翌日のような浮ついた空気に包まれていた。
露店の呼び声、弾む子どもたちの歌声、そして――なぜか俺の名前がそこかしこから聞こえてくる。
「♪かたっ、かたっ、ロイさ〜ん♪」
(いや子供よ、リズム良く肩を連呼するのやめてくれ)
先日の魔獣討伐の噂は爆発的に広まり、いまや俺――ロイは市場の話題の中心だ。
……なのだが、その賑やかさの裏に、どうにも落ち着かない気配がある。
「……ねぇロイ、なんだか街の空気が変じゃない?」
リリアが花束を眺めながら、ひそりと囁く。
「確かに」
セレナの鋭い眼光が、人混みをゆっくり横切る。
「笑ってはいるが、どこか怯えている。不自然だ。誰かが焦げた糸で街を操っているような……」
俺も――それには気づいていた。
(ずっと見られてる。人気ってレベルじゃねぇ。なんだこの凍える視線…)
好奇心の熱でも嫉妬でもない。もっと、刺すように冷たく、目的を持った視線。
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夕刻。俺たちはギルドに呼び出された。
掲示板に貼られた一枚の紙――そこには、奇妙な挑発文が踊っていた。
――「おじさんに告ぐ。貴様の肩を試させてもらう」
(まず“おじさん”表記をやめろ。名前書け名前)
紙には青い紋様が描かれており、セレナが厳しい声でつぶやく。
「……仮面の徒の紋章だ」
あの思想家ゼイヴ。
「力なき秩序は偽りだ」と語り、今の国家もギルドも否定し、破壊的な改革を推し進める男。
狂ってはいない。むしろ真面目すぎるがゆえに、仲間を惹きつけてしまう。
そんな奴の“次のターゲット”が、どうやら俺の肩らしい。
(いや肩だけじゃなくて人格見ろ……)
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夜。宿に戻ったその瞬間だった。
ガシャァンッッ!!
窓ガラスが砕け散り、黒い影が滑り込んできた。
反射的に俺の肩がビクッと跳ねる。いや反射で痛むのやめろ。
「ロイ!!」
セレナが剣を抜き、フィオナが矢を引き絞る。
ガイルは獣化して飛びかかり、リリアの風が敵の足元を吹き飛ばす。
だが敵は薄笑いを浮かべたままだ。
「やはり……“肩の男”。ゼイヴ様が注目するのもわかる」
(注目の理由そこ!? 肩!?)
短剣が俺の肩をかすめた瞬間――
ズキィィィィン!!
「ぐっ……また来たか、このクソ痛ぇやつ……!」
激痛と同時に、肩の奥で何かが燃え上がる。
熱が、脈打つように全身へ――
「う、おおおおお……っ!」
次の瞬間、無意識に肩を振り抜いていた。
――バァァァァンッ!!
肩口から光の衝撃波が走り、敵の男を壁へ吹き飛ばす。
リリアが声を失い、ガイルが目を輝かせて叫ぶ。
「でたぁーー! 肩から波動ぉーー!!」
(やめてくれ、その叫び方だけはやめてくれ!)
俺自身も驚いていた。
ただ痛みで動いただけなのに――そこに力が宿った。
新技。
だが肩の痺れは強烈で、体力をごっそり持っていかれる。
(くそ……これ、寿命削ってない?)
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「ゼイヴ様は言っていた……
“腐った街を守る英雄こそ、真の敵だ”……とな」
敵は床に転がりながらも、満足そうに笑って消え去った。
残された俺たちは、重苦しい沈黙に包まれる。
セレナがゆっくりと目を伏せる。
「……一理ある。この街の商人や貴族は、民を搾取している」
リリアも花束を握りしめたままつぶやいた。
「もしゼイヴの言うことが正しいなら……私たちは何を守っているんだろう」
仲間たちの間に、揺らぎが走る。
街の噂はじわじわ広がり、人々の心はざわつき始めていた。
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深夜。
俺は肩をさすりながら、宿の窓辺に立った。
静かな街。
だがその表面の下で、ゼイヴの影が確かに息づいている。
(本当に……守れるのか? 俺なんかに)
四十肩のおじさんが、街ひとつ救えるものか。
肩がズキンと痛み、まるで答えるように脈打つ。
(……まあ、やるしかないんだけどな)
痛みが消えない限り、俺は進むしかない。
たとえ力が代償を伴うとしても。
仲間と一緒に――この街を守るために。
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