【第15話:おじさん人気騒動】
街へ戻り、ようやく肩の痛みも――いや、痛みは普通に残ってるが――気持ちだけでも落ち着いた俺たちは、いつものギルドで一息つこうと扉を開けた。
すると、次の瞬間。
「きゃああーーーっ! ロイさんだっ!!」
「ほんもの!? ほんものの四十肩スラッシュの人!?」
「肩からビーム出して魔獣を倒したって聞いたよ!!」
……なんだその伝説の上乗せ。誰だ盛ったやつ。
ギルド内にいた冒険者や街の住人たちが、雪崩のように押し寄せてくる。
挙句の果てには子どもまで俺の足に抱きついて離れない。
「ちょ、ちょっと! 俺はただの四十肩のおじさんで――」
「あれで“ただのおじさん”なら、うちの父さんは虫以下ですよ!」
受付嬢ミーナまできらきらした目で言い出す。
(いや比較対象が失礼すぎないかあなたの家の男性陣に……?)
とにかく俺の必死の否定は、一切届かないのであった。
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その後も街を歩けば、どこへ行っても肩・肩・肩。
「この間の戦い、見てました! 肩を押さえながら立ち向かう姿……胸が熱くなりました!」
通りがかった女性の目がうるんでいて、こっちが困惑する。
「ロイ殿! ぜひうちの店の看板になってくれ!」
肉屋の主人まで乗り気だ。
いや俺の顔で肉売っても売上が下がる未来しか見えないんだが。
「サインください! ここに! 肩に!!」
子どもが自分の肩を差し出してくる。
(なんで肩限定なんだ……肩教でもできてるのか……?)
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仲間の反応も、まあ案の定というべきか。
セレナは腕を組んで言う。
「英雄というものは、望まずとも人気がつきまとうものだ。誇れ、ロイ」
(いや俺の肩を誇るんじゃなくて、なんで戦果より肩の話題なんだ)
リリアはくすっと笑って肩をすくめる。
「“おじさん人気”って、ちょっと新しいジャンルね」
(そんなジャンル、開拓した覚えはない)
フィオナは真剣な顔で言った。
「……私も肩を鍛えれば強くなれるのかしら」
(いや違う、鍛えたら四十肩にならないの。そこ誤解しないで)
そして極めつけはガイル。
目を輝かせ、拳を握りしめて叫ぶ。
「ロイは俺の憧れだ!! 肩をさすりながら戦うなんて……男のロマンだ!!」
(頼む。そのロマン、今すぐ捨ててくれ)
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夜、宿に戻った俺はベッドに倒れ込み、天井をぼんやり見上げた。
肩は、まあ……普通に痛い。
しかし不思議と――胸の奥があたたかい。
誰かに認められるなんて、前の人生では縁がなかった。
だからこそ、こうして感謝されるのは……ちょっと、悪くない。
(……まあ、人気が続いたら続いたでめんどくさいんだが)
そんなことをぼそっと考えていると、外から子どもたちの元気な声が響いた。
「ロイさーーーん!! 明日も肩でお願いしますーー!!」
(いや明日は肩休ませていいだろ!?)
どうやら俺の異世界生活は――
英雄譚ではなく、肩物語として進行しつつあるらしい。
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