【第14話:森に潜む影】
討伐任務の帰り道。
夕暮れの森は静かで、風に揺れる木々の音がどこか眠たげだった。
だが俺――ロイは、そんな穏やかさより先に、
“肩の疼き”のほうが気になって仕方がない。
「っ……く、今日も右肩が地味に痛ぇ……」
仲間たちの歩みは軽い。
セレナは剣を手にしながら背筋を伸ばし、いつも通り緊張感を保っている。
リリアは鼻歌を歌いながら、何か新しい魔法の詠唱を練習中。
そして、一番元気なのは――獣人の少年ガイルだ。
今日フィオナは街で別任務。四人での帰還だった。
「なあロイ見てくれよ! このキノコ、絶対うまいだろ!」
「やめとけ。それ腹壊す。三日はトイレで泣くやつだ」
「うそっ!? ロイって物知りだなぁ!」
無邪気な笑顔に、少しだけ肩の痛みが和らぐ気がする。
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森を満たす異様な気配
その時だった。
――ぞわり。
皮膚の裏側を氷の指でなぞられたような寒気が走る。
「……全員、止まれ」
セレナの声が鋭く響く。
風が止んだ。
森のざわめきが、嘘のように消える。
俺も反射的に剣を握ったが――
「くっ……! なんで今なんだよ……!」
四十肩が、よりによって緊張と同時に疼きだした。
「ロイ、無理すんな!」
ガイルが俺の横に飛び込むように立つ。
その幼い瞳には、獣の本能めいた鋭さが宿っていた。
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闇から現れる“仮面”
樹々の陰が揺れ、黒い外套が姿を現す。
四人。
全員が無表情の仮面で顔を覆い、じっとこちらを見ていた。
(こいつら……ただの賊じゃねぇな)
「来たか……」
セレナの剣が鈍く光る。
最前に立つ仮面の男が、一歩前へ。
「――時を乱す者よ。その力、確かめさせてもらう」
低く、湿った声だった。
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森に響く斬撃音
「リリア、後衛!」
「わ、わかった!」
セレナが先陣を切り、リリアが火球を構える。
ガイルは地を蹴って敵の斜め前に回り込む。
が――仮面の者たちは想像以上に手強かった。
巨体の男が木々ごと拳を叩き割り、
細身の女剣士はセレナの斬撃を片手で受け止め、
炎をまとう双子はリリアの魔法を読みきって避けていく。
「くっ……! なんだコイツら……!」
「ガイル、気をつけて!」
俺は痛む肩を押さえつつ、死角に回り込んだ敵をかろうじて受け流す。
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四十肩の逆襲
(痛ぇ……! でも……やるしかねぇ!)
「――四十肩ァァァ……スイングッ!!」
悲鳴のような叫びと共に、右腕を振り抜く。
肩の激痛が爆ぜ、
その勢いが剣に乗り――
バシュッ!
地面をえぐり、炎をまとった双子の片割れごと、
後方の木をまとめて薙ぎ倒した。
「……なっ!?」
「ただの老人ではない……!」
仮面たちの視線に、明確な動揺が走る。
(いや本当にただの老人なんだが!?)
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森に響く勝利の息
仲間の連携が整うと、戦況は一気に押し返される。
ガイルが敵の足元を撹乱し、
セレナの剣が仮面の者たちの動きを止め、
リリアの魔法が追撃を撃ち込む。
俺は最後の一振りで巨漢の男に斬撃を与えた――
だが、まったく怯んでいなかった。
「効いてねぇ……!?」
「……実力は見させてもらった。今回はここまでとしよう」
「だが忘れるな。我らは“正義”の側だ」
そう呟き、仮面たちは闇に溶けるように姿を消した。
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戦いの後で
風が戻り、森が再びざわめきはじめる。
「ロイ! 本当に大丈夫か!?」
ガイルが駆け寄ってくる。
汗と土まみれの顔で、真っ直ぐに俺を見上げるその瞳は、
まるで戦士そのものだった。
「肩痛いけど……まあ、生きてるから良しとするか」
「すっげぇよロイ! 痛いのに、あんな斬撃……!」
素直な称賛に、少しだけ胸が温かくなる。
「……ありがとうな、ガイル」
「へへっ!」
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そして――森のさらに奥で
その様子を、遥か奥の闇で誰かが見つめていた。
「……やはり。ロイという男――ただの老人ではない」
冷たい声が、木々の間で虚空に消える。
その気配は、まだ俺たちの知らぬ敵の存在を示していた。
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