【第13話:仮面をまとう者たち】
翌朝。
昨夜の魔獣騒動の爪痕が残った広場には、まだ砕けた石や焦げ跡が残っている。
だが、その中を走り回る子どもたちの笑い声が、まるで“街はまだ生きている”と告げるように響いていた。
ガイルと町の兵士たちが後片付けをし、商人たちは店を再開しはじめている。
誰もが疲れた顔をしているけれど、どこか誇らしげでもあった。
「ふぅ……やっと一息つけますわね」
フィオナが胸の前で腕を伸ばし、優雅にストレッチする。
「昨日の魔獣、本当にすごかったですよ」
ミーナが静かに微笑む。
「あの……“四十肩スイング”。想像以上に強力でした」
俺はと言えば――渋い顔をしながら肩をさすっていた。
(いや、強力って……ただ痛くて変な方向に振れただけだし……
ていうかスイングって誰が言い出したんだよ……)
「でも、おじさま。あの技、もしもっと鍛えれば……」
フィオナが期待に満ちた目でこちらを見る。
「いや、鍛えたら肩が死ぬからな?」
(俺の身体を勝手に武器扱いすんな……!)
そんなおじさんの心の叫びをよそに、2人は妙に楽しそうに話していた。
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――同じころ。
遥か遠い、大陸の外れにある黒い塔の一室。
薄暗い部屋の中央で、フードを深く被った男が水晶球に手をかざしていた。
水晶には、ロイ――つまり俺が、昨夜の戦いで斬撃を放つ瞬間が映っている。
「……あの魔獣が敗れるとは。しかも街の冒険者ごときに……と思っていたが」
低く、歪んだ笑いが漏れる。
「“あの男”が関わっていたとはな……」
フードの奥で男の唇がゆっくりと吊り上がる。
「予想外の要素だ。ならば――計画は早める必要がある」
水晶に映った俺の姿を、獲物を見るような目で見つめながら。
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――同じ時刻。
街の地下、封印され長く忘れられた遺跡。
石壁に青い紋様が浮かび上がり、淡く不気味な光を放っていた。
その中心に、十数名の影が静かに佇む。
全員が顔を隠す仮面をつけていた。
彫刻のような無機質な仮面。
角ばったもの、涙の模様が刻まれたもの、笑っているようなもの。
一つとして同じ形がない。
「魔獣が街に出現して混乱は広がるはずだった」
「……しかし、予想外の者が撃退したようだ」
「ロイ……という男だな」
「聞いた。四十肩らしい」
「……四十肩であの斬撃……?」
「笑うな。奴はただの老人ではない」
仮面の視線が一斉に沈んだ空気をまとい、中央の壇に立つ一人へ向く。
「――《仮面の徒》として、放置するわけにはいかぬ」
その声は、冷たく、石の響きのように重い。
「街で動き始めた“異物”。
あの男が、我らの計画に関わる存在なら……早めに処理する必要がある」
仮面の者たちは互いに頷きあい、背後の闇に溶けるように姿を消していく。
静寂だけが残った空間で、冷たい風が一つ、石壁を撫でた。
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――そうとは知らず、俺たちはのんきに朝食を食べていた。
(いやなんで俺ばっか狙われる流れなんだよ……?
頼む、ただの一般おじさんに戻してくれ……!)
そんな願いが叶うことは――まだ、誰も知らない。
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