【第11話:宴の夜に、揺れる視線】
依頼を終えた俺たちは、いつもの酒場へ流れ込むように入っていった。
木製の扉を開くと、香ばしい肉の匂い、焼けたパンの熱気、エールの泡立つ音が一気に押し寄せてくる。
「かんぱーいっ!!」
リリアが勢いよくジョッキを掲げると、周囲もつられて歓声が上がり、宴が始まった。
俺もジョッキを持つが……肩にずきっと痛み。
――くそ、四十肩。異世界に来ても治らないのか。
――――――
「ふふっ……やっぱり依頼の後の一杯は格別ですわね!」
フィオナが豪快にエールをあおる。華奢なのに、飲みっぷりが勇者級だ。
「そんなに飲んで大丈夫か?」と俺が言うと、
「おじさまもどうぞ! 今夜ぐらい、肩の痛みもエールで流しましょう!」
と言いながら、俺のジョッキにぐいっと注ぎ足してくる。
というか、この世界では大人じゃなくても酒飲んでいいのか……
至近距離。息がかかる。
なぜかいい匂いする。
(あぁぁぁぁ!! こんな至近距離……! でも自然に振る舞わないと……わたくしは孤高の狩人……落ち着け落ち着け……!)
……完全に落ち着いてない。
――――――
そこへ、仕事終わりのミーナが現れる。
柔らかいランプの光に照らされた横顔は、なんだか妙に色っぽい。
「皆さん、お疲れさまです。依頼の成功、本当にすごかったですね」
そう言いながら、俺の隣にそっと腰掛け――
小さく、でも確かに言った。
「……無事で良かった」
その瞬間、心臓が跳ねる。
あれ? 俺、今、ヒロインの好感度上がるシーンに出くわした?
――――――
(むぬぬぬっ!? またその“おじさま限定スマイル”ですわね!?)
フィオナがバッと身を乗り出す。
「ミーナさん、安心してください! おじさまの身はこの私が守りますから! 森でも街でも、昼でも夜でも!」
昼夜問わずって、ストーカー宣言みたいになってるぞ。
「ふふ……頼もしいですね。でも、ロイさんを守るのは――皆さん一緒、ですよ?」
ミーナは落ち着いた声で返す。
大人の余裕。フィオナにないやつ。
(くっ……この余裕……! 完全に大人の女ですわ……! なんなんですのその包容力!)
フィオナの心がメラメラ燃えているのが分かる。
――――――
一方、俺は完全に置いてけぼりだ。
「……え、これ。俺モテてる……のか?」
自分のジョッキに映る顔を見ても、疲れた四十肩の中年がいるだけなんだが。
セレナがぼそりと呟いた。
「ロイ、女難の相が濃くなってきたな。……まぁ、本人は気づいてないんだろうが」
いや、気づいたよ今。
リリアは楽しそうに肉を頬張りながら、
「どっちが勝つんだろ〜。見てるだけで面白い」
と、完全に傍観する気満々。
――――――
フィオナは張り合うように俺へエールを注いでくるし、
ミーナは時々さりげなく水を差し出してくれたりする。
(ちょっと!? ミーナさん、健康管理まで……! ずるいですわ!)
(フィオナさん……お酒飲ませすぎです。肩に悪いと思うんだけど……)
二人の視線が交差するたび、バチバチと火花が散ってる気さえする。
なんだこれ。
俺はただの肩痛いおじさんのはずなのに。
異世界の男女は中年需要でもあるのか?
――――――
そうして、笑い声と嫉妬と微妙に甘い空気が混ざり合う中――
宴の夜はゆっくりと更けていった。
(……肩はまだ痛む。
でも、今日一番痛いのは――俺の心臓だ。
色んな意味で。)
―――――――――――――――――




