【第10話:受付嬢ミーナと、狩人フィオナ】
森での依頼を終え、俺たちは疲れた体を引きずりつつギルドへ戻った。
カウンターの向こうに立つのは、いつもの受付嬢ミーナだ。
「おかえりなさいませ、皆さん。……無事で良かったです」
柔らかい微笑み。そして――
ほんの一瞬だけ、俺に向けた視線が柔らかくなる。
……え? 気のせい?
いや、気のせいにしとくか。下手に期待すると後で痛い。
――――――
「ふふっ、依頼達成!」リリアが弾んだ声を出す。
「狼の群れ、殲滅完了だ」セレナが無表情で牙を差し出した。
ミーナは牙を受け取り、確認して――固まった。
「この数……群れ丸ごと、ですか? しかも……ほとんど一撃で……?」
「そう! わたくしの矢でございますわ!」
フィオナが前へ出て、これでもかとドヤポーズ。
背中の弓が光って見えるのは、たぶん気のせいじゃない。
――――――
「えっと……初めて見る方ですけど、冒険者登録は?」
ミーナが丁寧に問いかける。
「わたくし、フィオナ=ルーンベルク! 森が微笑み、風が導いた孤高の狩人ですわ!」
「……」
ミーナの笑顔が数ミリ引きつった。
(え……えっ……何この人……キャラが濃すぎて処理しきれない……!)
ミーナの内心まで聞こえてきそうだ。
いや、実際ちょっと分かる。俺も昨日は混乱した。
――――――
空気が少し重くなったので、俺はフォローに入る。
「腕は確かだよ。群れのほとんどをあいつが仕留めた」
ミーナが俺を見る。
その目が、ほわっと優しくなる。
「……ロイさんがそう言うなら、本物ですね」
……ちょっと待て。
なんかその“ロイさん信頼フィルター”みたいなやつ、俺にだけ適用されてない?
(な……!? この受付嬢、おじさまにだけ柔らかい眼差し……?
ぬ、抜け駆け……許しませんわよ……!)
フィオナがサッと寄ってきて、俺の腕にぴたりとくっついた。
「おじさまは私が守りますから! 森でも街でも、どこでも!」
「いや、俺そんなに弱くないからな? 四十肩だけど」
「そこが放っておけないんですよね」
ミーナが、完全に何か含んだ笑みを浮かべる。
おい、やめろ。
その“わかってますよ”みたいな目。
おじさん耐性が弱いんだよ。
――――――
「なんか……三角関係っぽくない?」
リリアが小声でワクワクしている。
「いや、四角になるかもしれない」
セレナが真顔で腕を組む。
「ガイルは……どう見てもロイに興味ないから除外か」
「そりゃそうだろ!」
――――――
ミーナは淡々と報告書を書き始めたが、時々、ちらっと俺を見る。
そのたびフィオナが「むむむ……」と低い唸り声を出す。
(ま、負けない……! おじさまの一番の理解者は私……!
たとえ昨日仲間になったばかりでも、恋の戦場に日数は関係ありませんわ!)
(いや何の戦場始まってんだよ……俺はただ腰が痛い普通のおっさんなんだが……?)
――――――
こうして、ギルド受付嬢とイタイ天才狩人による
“おじさんをめぐる静かな小競り合い”
は、静かに幕を開けたのだった。
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