第五話 毒
「よくも・・・遠くまで飛ばしてくれましたね」
俺が蹴り飛ばした怪異はそう言うと、俺に大蜘蛛をけしかけてきた。
「おっと、危ない危ない」
だが、残念ながら俺の命を奪うには至らない。
とりあえず大蜘蛛の足を全て斬りとばそう。そう思ったのだが―――
「あれ?」
―――砂漠の砂に足を取られ、バランスを崩してしまった。
「ふはははは!馬鹿め、砂を甘く見たな。死ねぇ!!!!!!」
前からは大蜘蛛の足、後ろからはイルの父親を乗っとた怪異の攻撃。
更には、慣れない砂漠での戦闘。
避けることは厳しい。
絶体絶命・・・だと思うでしょ?
でも―――
「敵を壊し狂わせろ―――【狂毒】」
―――布石は打ってある。
絶体絶命なのはお前だよ、怪異の本体。
次の瞬間、大蜘蛛の足は俺ではなく怪異の本体を貫いた。
「ガはっ!!!な、何故、何故私が?」
怪異の本体は酷く混乱しているようだ。
「くッ!!!貴様、一体何をした?」
「毒だよ」
「ど、毒ぅ?」
どうやら目の前の怪異は知識を余り持たない怪異らしい。
どれ程の知識しか持たないのか、聞いてみるか。
一応言っておくが、俺は怪異に恨みを持って【Death Merchants】に所属しているわけではない。
だから、怪異を殺すことを至上としているわけではなく、興味をそそられる事があったら、怪異を殺さないという選択肢を取らないこともある。
例えば、人撫とか。あいつも怪異だが、能力が興味深いから殺さずに飼っている。
今だってそうだ。
正直、目の前の怪異にとどめを刺すことは今すぐ出来る。
でも、しない。
なぜなら興味深いからだ。
そもそも、こんな砂漠の真ん中に街があって、その街が怪異に支配されているなんて前例のないことだ。
だからこそ知りたい。
目の前の怪異が何を知り、何を知らないのか。
情報はいくら手に入れていても損はない。
「なぁ、お前、俺達についてどこまで知ってる?」
「は?なんでそんなことを・・・」
「俺の体を乗っ取る為の時間を稼げるぞ?」
「っ」
俺の予測なら、目の前の怪異の能力は体の乗っ取り。
そして恐らく、目の前の怪異の反応からして俺の予測は正しい。
「怪異に死を売る商人と呼ばれる者達・・・ですかね」
「じゃあ、何故俺達がそう呼ばれてるかは知ってる?」
「いいえ」
「知りたい?」
「・・・教えてくれるなら」
「いいよ」
昔、ある所に一人の商人がいました。
その商人は裕福ではありませんでしたが、愛する妻と子供と三人で幸せに暮らしていました。
しかし、その幸せは長く続きませんでした。
なぜなら、その商人が仕事に行っている間に、妻と子供が怪異に食べられてしまったからです。
それを知った商人は激怒し、愛する者を奪った怪異に復讐を決意しました。
しかし、その復讐は中々達成されることはありませんでした。
なぜなら、その当時は怪異を殺す方法が無かったからです。
剣で斬っても、質量で潰しても、怪異を殺すことは出来ませんでした。
ですが、商人は諦めなかった。
そして、遂に怪異を殺す方法を見つけました。
それは毒でした。
その毒は怪異を殺すためだけの毒で、後に【原初の毒】と呼ばれました。
商人はその【原初の毒】で怪異を殺しまくりました。
殆どの怪異は【原初の毒】で殺すことが出来ました。
しかし、商人の家族を殺した怪異だけは殺すことが出来ませんでした。
しかし、商人には新たな毒を創り出す時間はありませんでした。
そこで商人は未来に託すことにしました。
そうして設立されたのが、怪異に死を売る商人組織【Death Merchants】でした。
「な、なるほど。貴方達の所属する組織を作った人物が商人だったために、そこに所属する貴方達も商人呼びされているのですか」
「そういうこと」
「つまり、今私の体で暴れまわっているのも、その【原初の毒】!!!!」
「いや、違う」
「は?」
「もし俺が【原初の毒】の使い手だったらお前はもう死んでる。悔しいけど、今この世界にある毒の中で一番強力なのは【原初の毒】だからね。今お前を苦しめているのは俺が創った毒だよ」
「あ、貴方の?」
「そう。【Death Merchants】所属の条件が、自身で怪異を殺す毒を創ることだからね。名は【狂毒】。効果は細胞を狂わせて壊すこと。お前の大蜘蛛がお前を攻撃したのもこの効果のせいだ」
「では、私が自身の能力を使えないのも?」
「【狂毒】がお前の細胞を壊しているからだな。残念だけどお前、もうすぐ死ぬよ」
「どうやら・・・そのようですね。ははっ、実に呆気ない最期だ」
「死ぬときなんて意外にそんなものだ。でも、お前は運が良い」
「何故?」
「俺はいずれ【原初の毒】を超える毒を創り出す男だ。そんな男に殺されるんだ、誇らしいだろう?」
「・・・ふざけろ」
そう言い残すと、目の前の怪異は塵となって消えた。
「終わったか」
さて、街の方は人撫がなんとかしてるだろうし、ゆっくり戻ろう。
人物詳細
名前:ナル
使用武器:刀
使用毒:狂毒
目的:【原初の毒】を超える毒を創り出す。