第四話 人撫
危なかった。
間一髪、大蜘蛛の攻撃?からイルを助けることができたけど、もう少し遅かったら完全に間に合っていなかった。
少し、イルの父親のことで気になることがあったので色々探っていたのと、街の人間たちを避難させる為の仕込みをしていたらすっかり遅くなってしまった。
まぁ、色々探っておいてよかったよ。
「これはこれは。乱暴な乱入者だね」
俺が斬りそこねた男が今目の前で嗤っている。
俺はイルを助ける際、大蜘蛛の怪異だけでなく、イルの父親にも攻撃を仕掛けた。
油断も慢心も無い、そこそこ本気の一撃を。
しかし結果は見ての通り、余裕で避けられた。
安易に踏み込めない。
舐めてかかれば此方が殺られる。
強者の雰囲気ではなく、策士の雰囲気を持つ男だ。
正直、相手にしたくないタイプの筆頭だ。
「おや?返事は無しかい?悲しいねぇ〜」
「・・・」
「もしかして・・・僕を怖がってる?」
よし、殺そう。
『ちょ、ちょい待ち』
俺が目の前のカスを殺そうと、刀を抜いた瞬間、頭の中に声が響いた。
声の正体は俺が飼ってる怪異だ。こいつの名前は―――
『待って待って。自己紹介くらい自分でやるよ』
―――そうか。
『ほな皆さん。自己紹介始めますわ。ワシは人撫、ジンナちゃんって呼んでくれ。ん?なんの怪異か?それは、あれよ、あれ。なぁ、ナル・・・』
こいつは人の強い想いを喰らって、その想いを喰らった人間の姿や思考を完璧に再現できる怪異だ。イルの母親の正体もこいつだ。
『とは言っても、ワシにイル嬢と喋った記憶はないねんけどな!』
再現とはいうが、本来はもっと複雑な能力を持つ。
『そう、ワシは凄いねん!!!!!ってちゃうわ』
ん?なんだ?
『お前なにイル嬢の前で戦いおっぱじめようとしてねん。一応その男、イル嬢の父親やぞ』
・・・あ。
『お前にはそいつが怪異にしか見えへんやろうけど、イル嬢からしたら父親やぞ。っていうか、それの配慮のために色々準備してたんやんけ』
思いっきり忘れてた。いざ相対すると怪異にしか見えなかくて、つい。
『ワシ達はイル嬢の父親は大分前に怪異の本体に乗っ取られてるって知ってるけど、イル嬢は知らんねんで?そこんとこ配慮していこうや』
・・・ごめん。
『ほんま、気を付けてや〜。ほら今、イル嬢涙であんま前見えてないから、さっさと怪異連れて遠くいけ!後はワシがなんとか誤魔化しとくから』
悪い。
『ええよ。相棒やからな』
・・・ジンナちゃん。
『そこは呼び捨てにするとこや!って何言わせんねん、はよ行け』
ああ。ありがとう。
「おい、そこの怪異」
「はい?」
「避けろよ?」
「は?」
俺はそう言うと殺す気で斬りかかった。勿論、イルには見えない速度でだ。
だが、目の前の怪異には俺の動きが見えたらしい。その証拠に、かなり無理な体勢で避けてバランスを崩している。
よし、い―――
『今や!!!!!蹴り飛ばせ!!!!!!!!!!!』
―――・・・
「フッ」
「あ、あの。私別に悪いことしてませんよね?ね?」
「すうーーーー」
「あ、あの」
「死ね☆」
俺は蹴った。本気で、殺す気で。
「グガ?」
「お前も蹴られる?それとも自主的に向こうの砂漠行く?」
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
あ、自主的に行った。
よし、俺も砂漠に向かうとしよう。
『こ、怖〜』