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第二話 大切な人

 ナル様が居なくなった部屋で、私はナル様との会話を思い返していた。


 大蜘蛛様は、この街の外では怪異と呼ばれる存在。

 そして、ナル様はその怪異を狩る存在らしい。


 ナル様は約束してくださった。明日の祭りをぶち壊すと。


 嬉しかった。でも、それ以上に安心してしまう自分が情けなかった。


 今まで、多くの女性が生贄として大蜘蛛様に捧げられてきた。生贄に選ばれた女性達は母を含め皆、この街の為に死ぬ覚悟を持って生きていた。


 私も覚悟を持っているつもりだった。この街の為に死ぬ覚悟を―――


 でも、持ってなかった。現に今、私は死ななくてよいことに対して安心している。

 あぁ、なんて醜い性根の女なのだろう。


 そんな風に自分を責めている時。


 「イル」


 死んだはずの母の声が、全てを包み込むような優しい声が私の耳に届いた。


 その声を聞くだけで、安心して泣きそうになる。


 有り得ないと分かっていても、期待してしまう。


 声がしたほうを見れば、そこには確かに死んだはずの母が立っていた。


 


 「な、なんで母様が?し、死んでしまったはずじゃ・・・」


 「えぇ、確かに私はあの化物に食べられて死んだわ」


 「じゃあ、なんで?なんで母様は今ここにいるの?」


 「ナルという青年に呼ばれたの。娘と話してこいって」


 ナル様が!?一体どうやって?


 「イル。私は貴方に謝らなければならないの」


 「・・・謝らなければならないこと?」


 「貴方に普通の女の子として過ごさせることが出来なかった。私が不甲斐なかったばかりに貴方に多くの苦労をかけてしまっている。そのことをずっと誤りたかったの。ごめんなさい、イル」


 そう言うと、母様は私に頭を下げた。


 母様はイルにとって頼れる親であり、同時に尊敬する女性だった。


 恐怖で満ち溢れているこの街で、自分の芯を持っている強い女性だった。


 死ぬ直前まで、私のことを想ってくれた人だった。


 そんな人が、私に頭を下げている。




 すぐに否定したかった。


 そんなことない。母様のお陰で私は普通の女の子でいられた。

 

 だからそんな風に自分を責めないで!と。


 謝りたかった。


 私は弱い人間だったと。


 母様のように死ぬ覚悟を持てなかった。と。


 それなのに―――


   


 「なんで、私を置いてしんじゃったの?」




 口から出たのは母を責める言葉だった。




 「・・・イル」


 「ずっと、ずっと心細かった」


 「ごめん。ごめんね、イル」


 「ずっと寂しかった」


 「ごめんね」


 「でも、そう思えたのは、母様が私にとって大切な人だったから」


 「え?」


 「母様が大切な人だから、私は母様が死んでしまって悲しかった」


 「・・・」


 「だから、そんな風に自分を責めないで。母様」


 「イル・・・」


 




 その後の記憶はあまりない。


 気が付けば、朝日が昇っており、私を抱きしめていた母はいなくてなっていた。


 その後、私は自身の部屋を出て、街を歩いていたらしい。


 その証拠に、私の目の前にはナル様がいた。


 「ナル様。母の件、有難うございました」


 「果物と水の礼だ。気にしないでくれ」


 「それでも、有難うございました」


 「・・・そうか」


 ナル様は照れたのか、そっぽを向いてしまった。


 「イル」


 「はい、ナル様」


 「今日の祭り、覚悟を決めておけ」


 「覚悟・・・ですか?」


 「あぁ。俺は約束通り、大蜘蛛の怪異を殺して今日の祭りをぶち壊す。だが、その過程でお前は大切な人を失う可能性がある」


 「ぇ?」


 「だから、覚悟を決めておけ。大切な人を失う覚悟を」


 それだけ言うと、ナル様は私の前から姿を消した。


 

※主人公はナルです。


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