第十二話 実力
「それじゃあ、ここからは俺の出番ってわけだ」
そう言うと、煙は懐から彼の武器である煙管を取り出した。
やる気満々らしいが・・・
体を怪異にでも乗っ取られているのだろうか?
「おい、ナル。なんで俺から距離を取る」
「いや、やる気満々な煙は、煙じゃないから」
「から?」
「怪異に乗っ取られてるのかなって」
「なんて失礼な奴だ。俺はナルをそんな風に育てた覚えはないぞ」
「育てられた覚えはないな」
煙にしてもらったことか・・・
そういえば酒を無理矢理飲まされてたな。
あとは、女性とおしゃべりする店にも無理矢理連れて行かれたっけ。
う〜ん、ロクなことされていないな。
「なんて薄情な奴なんだ。紅さんもなんか言ってやってくれや」
「うむ!!!私は楽しみだぞ、煙が仕事することですら稀なのに、直接煙の仕事しているところを見ることが出来るのだからな!!!」
「だってさ。仕事することすら稀だって」
「いや、違うんだ」
「なにが違うんだ?」
「俺はちゃんと仕事はするぜ。ただこなす量が少ないだけなんだ」
「それは簡単にまとめたら、仕事してないになるんだよ」
「グッ」
「ハッハッハ!!!面白いな、二人の会話は。ずっと聞いていたいくらいだ。ただ、あまりここに長時間いたくないので、早めに仕事に取り掛かってくれると助かるよ、煙」
あ、怒られた?のか。
俺も気を付けよう
「あ、すいません。すぐに取り掛かります」
そう言うと、煙は穴の方へ歩いていった。
あの穴の中、やばい気配がいくつもあった。
「なぁ、鈴風」
「なんだ?ナル」
「タメで喋っていい?」
「いいぞ!!!」
「じゃあ遠慮なく。鈴風はあの穴の中、【凪奈落】の中に入ったこともあるんだよな?実際にどんな感じだったんだ?」
「うむ。今ほどではないが、強力な怪異は複数いたな」
「じゃあどうやって下まで行っていたんだ?適応が怖いから【紅毒】を使って殺すわけにはいかないいだろう?」
「怪異には見えない速度で壁を蹴って降りる!!!だな」
「なるほど、ゴリ押し戦法か」
「ただ、今日はその戦法は無理だろうな!!!怪異が多すぎる」
「確かに」
「だからこそ楽しみなのだ!!!ナルの紹介してきた煙がどうこの状況を切り抜けるのか!!!」
楽しみね。
まぁ、期待以上の働きをしてくれるだろうな。煙は。
煙は、確かに仕事を全然しないし、街のチンピラ達から金を巻き上げるしと、基本的にだめな人間だ。
でも、煙は一度引き受けた仕事では完璧以上の結果を出す。そんな男だ。
だから今回も、煙ならやってくれるはずだ。俺はそう信じている。
「おい、二人とも。そろそろ行くぞ」
「おお!!!準備は終わったのか?煙」
「ああ、煙管で音を鳴らして【凪奈落】の大体の構造と中の怪異の数と配置は理解した」
反響定位か。
さっき、煙管で地面を叩いていたのはそういうことか。
「ほう!!!では次はどうするのだ?」
「俺の毒で中の怪異を行動不能にします」
「は?え?どういうことだ?」
「まぁ、見ててくださいや。敵を酔わせて惑わせろ―――【魅宴】」
そう言うと、煙は【凪奈落】の中に毒の煙を送り込んだ。
煙が扱う毒、【魅宴】。
その効果は、毒の煙を吸った相手を強制的に酩酊状態にさせる。
例えば、幻覚を見せたり、平衡感覚を失わせたり、逆に視界をなくさせたり。
まぁ、簡単に言えば相手にデバフ?をかける毒だ。
そんな毒を扱う煙は、普通に凄いと思う
まあ、酒、女、金が大好きな駄目駄目人間だけど。
「おいナル。さっきから感心したり呆れたりと一体何を考えてるんだ?」
「ん?・・・ところで、中の様子はどう?いけそう?」
「露骨に話をそらしやがって。まぁ、今の毒で殆どの怪異が行動不能になっただろう。今なら安全にお前たちを下まで送り届けられる」
「流石だな、煙」
「まぁな。んじゃあ、俺が先行するからついて来てくれや。配置としては、俺が最初で真ん中が紅さん、そんで最後に煙。これでいいか?」
「ああ!!!問題ない!!!」
「俺もそれでいい」
「よし、んじゃ行くか」
そう言うと、煙は【凪奈落】の中へ入っていった。
それに続いて、紅 鈴風と俺も中に入った。
「うわぁ、やばいな。煙の毒の効果」
【凪奈落】の中は薄暗かったが、視界が確保できない程の暗さではなく、そのおかげで正気を失っている怪異達を見ることができた。
「【四大怪異】の眷属達がこうも簡単に・・・恐ろしい実力だ」
紅 鈴風も煙の実力に驚いている様子だった。
ちなみに俺も驚いていた。
まさかここまで煙の実力が上がっているとは思わなかったからだ。
本当に期待以上の働きをしてくれる。
その後、俺達は酩酊状態で空に浮いている怪異を足場にしながら下を目指していたのだが―――
「煙!!!」
「ああ、分かってる」
―――煙の毒でも行動不能にならなかった複数の怪異が俺達に襲いかかってきた。
仕方ない、俺も戦うか。
そう思い、刀を抜こうとした瞬間。
「待て、ナル。お前は手を出すな、俺が殺る」
煙に止められた。
「・・・理由は?」
「俺は宣言した、"お前達二人を下まで安全に送る届ける"と。その宣言を実行するだけの話だ」
「分かった。だが、無茶はするなよ」
「それはお前に言うべき言葉であって、俺には関係ない」
「あー、そうだな」
「ふっ。分かったらナルと紅さんはそこの怪異の背にでも乗っといてくれ。そいつはしばらく動かないから」
「了解した!!!」
「オッケー」
俺と紅 鈴風は煙の言う通り、近くの怪異の背に避難した。
しかし、大丈夫だろうか?
煙の毒はあくまでも、酩酊状態にさせるものであって殺すものではない。
だから、酩酊状態ではない怪異を相手にするのは無理なはず・・・なんだけどな。
「「「「「ギンジュウキャ!!!!ギョロス」」」」」
「はぁ、うるせえ奴らだ。他の奴らは全員酔ってんだから、静かにしろや」
そう言うと、煙は【魅宴】の時とは別の煙管を懐から取り出した。
「うるせえお前らに教えてやるが、俺の毒は酒の性質を持っている。俺の毒をくらった奴は、殆どが酔って行動不能になる。ま、皆幸せな状態になるわけよ」
「「「「「ギョロスギョロスギョロスウウウウウウウウ!!!!!」」」」」
「だが、偶にお前らみたいな酔わない奴が出てくる。そんでもって、そういう奴は大体楽しい宴をぶち壊す。だから、排除しなきゃならねえ」
「「「「「グ、ギャ!?」」」」」
「酒は適量なら酔うくらいで済むが、飲み過ぎたら死に至ることもある。俺の毒も同じで、くらい過ぎたら、死に至るぜ。酔わねえ奴はぶち殺す―――【壊宴】」
「「「「「グ、ギャ・・・・ァ゙」」」」」
「嘘、だろ」
「な、ここまでとは」
煙の【壊煙】をくらった怪異達は何もできずに塵になった。
それはつまり、あの一瞬で怪異の核を破壊するに至ったということ。
それもただの怪異じゃない。
【四大怪異】の眷属達を。
「さて、怪異も殺ったし、さっさと下へ向かおうぜ」
「あ、ああ」
その後は特に何事もなく、煙の先導のもと下へは辿り着いた。
そう下へは。
下についた瞬間、俺達が感じた感情は安堵でも喜びでもない。
俺達が感じた感情は・・・恐怖。
「ナル」
「分かってる、多分だけど俺が一番適任だ」
俺達が下に降りた瞬間感じた殺気、その持ち主はこちらにゆっくりと近づいてくる。
俺はゆっくりと刀を抜いた。
誰かが息を呑んだ。
その時には【凪奈落】に太刀音が響き渡った。
「ホぅ。これを・・・ウケるか」
「っ」
おっも!!!!
「ナル!!!援護いるか?」
「い、要らない!!!煙は紅 鈴風を守れ!!!」
「立派ナ・・・心ダ。おヌシ、名ハナンとイウ?」
「・・・ナル。そういうあんたは?」
「ワタシか?ワタシの名は・・・ムクロ」
「そうか、ムクロね。じゃあ聞くけど、他の怪異達はどうした?見たところ、一体もいないようだけど」
「すベテ、斬った。カレラは・・・美しくナカッたのデナ」
「そうですかっ!!!」
俺はムクロの刀を弾き、急いで距離を取った。
「フム。スバラしい力ダ。ナル・・・お主とナラ、美しいコロしアイがデキる気ガすル」
そう話す着物姿の骸骨は、少し笑っているようだった。