第十一話 凪奈落
【凪奈落】
・【紅麟】と【四大怪異】が封印されている場所。
・直径一キロの巨大な穴で深さはおよそ六十メートル程あるとされている。
・周辺には下級から中級の怪異が複数確認されている。
・穴の中には【四大怪異】の眷属や他にも上級の怪異が多数確認されている。
・これまで紅一族以外の人間が立ち入ったという記録はない。
そんな【凪奈落】の近くまで俺は来ていた。
俺の他に、【Death Merchants】第21代会長・紅 鈴風や【魅宴】の煙もいる。
今回の再封印の任務?は結構重要なはずなんだけど・・・
「うむ!!!快晴だな!!!」
「怪異がうじゃうじゃといやがる。気分が萎えるぜ」
この面子は緊張というものを知らないらしい。
「さて、全員集まったところで自己紹介をしよう!!!」
なんで?
「なんで?」
「心の声が漏れているぞ、ナル」
「あ、すいません」
「うむ!!!まぁ、自己紹介の理由は単純なものだ!!!こらから我々は互いに命を、背中を預ける仲になる!!!故にお互いのことは最低限知らなければなるまい。勿論、私とて組織の長として二人のことはよく知っている。だが、本人の口から聞きたいのだ!!!二人のことを」
なるほど・・・って納得していいのか?
「なるほど、じゃあ俺から自己紹介するわ。俺の名前は煙、得意なことは戦闘の補助」
え、終わり?
「うむ、ならば次は私だな!!!私の名は紅 鈴風、得意なことは戦闘だ!!!」
この流れで行くなら、次は俺か。
「あー、俺の名前はナル。得意なことも苦手なこともないです」
この自己紹介、必要かな?
「よし!!!自己紹介も終わったことだし作戦会議といこうか」
「はい」
「まず、我々の目的は【紅麟】の再封印だ!!!しかし、再封印と言っても、直接【紅麟】と戦うわけではなく、あくまでも露出した核の対処だ!!!」
「だが、懸念事項が一つある」
「その通りだ!!!煙。その懸念事項は【紅麟】の【紅毒】への適応」
「更にその適応は周りの怪異を攻撃しても進む恐れが十二分にある。だからあんたは俺とナルを呼んだ。邪魔になるであろう怪異を殺させるために」
「ああ、その通りだ!!!」
そう、俺と煙の今回の再封印での役割は、簡単に言えば露払いだ。
簡単に言えば・・・だが。
「ここから見ただけでも【凪奈落】の周辺にはかなりの怪異がいる。周辺であの数じゃあ、中にはさらに多くの怪異がいるだろうな」
「ああ、だから君達二人を呼んだのだ。君はナルの推薦だが・・・」
うわ〜確かにめっちゃいるよ。100体くらいいるんじゃないか?
あ、何体かこっちに気付いた。
うわ、こっち見た怪異が仲間に殺されてる。
いや、怪異同士は別に仲間ってわけじゃないのか?
「・・・まさか、ここまで来て怖気付いたわけではあるまいな?」
「そんなわけないでしょ。あんな下級や中級の怪異数百体、ナル一人で問題ない!なぁ、ナル」
へ?
「そうか!!!頼もしいな、ナル!!!」
え?
「そういうわけで、よろしく頼むぜ、ナル」
「・・・煙、お前仕事を俺に押し付けただろ」
「まぁな。でも話に入ってこず、好奇心を優先して【凪奈落】を観察してたナルも悪いからな?」
「確かに・・・」
「それに、適応が怖い。分かるだろ?ナル」
「あぁ〜ここで複数の毒を使うのは確かに悪手だな。下手したらどっちも使い物にならなくなる」
「そうゆうこと」
「はぁ、そういう理由なら仕方ない。じゃあ、ちょっくら邪魔な怪異殺してくるよ」
「何分かかりそうだ?」
「う〜ん、五分」
「了解」
その了解という言葉を聞いた次の瞬間には、俺は怪異達の群れ?の中にいた。
「さぁ、時間もない。早めに終わらせようっか」
手始めに近くにいた複数の怪異に【狂毒】を喰らわせた。
すると、その怪異達は秒で動かなくなり、すぐに崩壊した。
「凄い効果だな、人撫の毛。今までで一番だ」
この日までにもなんどか下級の怪異で試したけど、ここまでじゃなかった。
人撫の毛が【狂毒】に馴染んでいるのか?
「ははっ、だとしたら嬉しい誤算だな!!!」
俺の毒はもっと強力になれる。
今なら、あれもやれる。
毒の効果的に、炎馬の鬣を使った【狂毒】でしか出来なかったあの技が。
最小の動きで最高の結果を。
最少の毒で最大の効力を。
周りの障害物を足場にし、空間を舞うようにして相手を殺す技。
今なら怪異達が集まってきていい障害物になっている。
うん。出来そうだ。
「狂乱演舞!!!」
次の瞬間、俺の周りで蠢いていた数十の怪異が塵となって消えた。
「あと数十体ってあれ?」
残っていた怪異が逃げてしまった。
ん〜まっ!楽で良いか!!!
さて、終わったことだしあの二人を呼―――ぶ必要はなかった。
もう来てる。
「流石だな、ナル。五分もかからず終わらしちまって」
「ああ!!!素晴らしい結果だ!!!」
「まぁ、ここはまだ【凪奈落】の入口ですらないからね。全然楽だったよ。でも、ここからが―――」
そう言って俺は【凪奈落】の穴を覗き込む。
覗き込んだだけでも、身を震わせる殺気がここまで届いてくる。
【四大怪異】の眷属達に複数の上級怪異達か。
「―――本番だ」
「それじゃあここからは、俺の出番ってわけだ」