第1話 ティーブレイク。
「アメリーもアリーナも、舞踏会の仕事、お疲れ様。今回もいい働きぶりだったようね。王城から今後も仕事が貰えそうよ。まず、お茶にしましょう?」
そう言ってアグネスが二人に席を勧める。
紅茶はアグネス部長自ら入れる。
部長の執務室のカーテンは開けられ、心地い風がそよいでいる。
仕事上がりの二人は、昨日は休日。今日は朝から部長にお茶に誘われた。いつもは似たような年齢のアーダと3人で組むことが多いが、今回、アーダは別の仕事で侍女役で舞踏会に来ていた。
「どうだった?舞踏会。何か面白い話聞けたかしら?」
紅茶がふんわりと香る。
部長が添えてくれた焼き菓子も、美味しそうだ。
なんの遠慮もなく、アリーナが焼き菓子をほおばる。
「私は給仕係をしておりましたので。楽しかったですよ?一番面白そうな話は、やはり、今まで結婚する気がないと言われていたモーリッツ公爵家の嫡男が、結婚に前向きになったという噂ですかね。婚約者がきまっていない令嬢はもちろん、婚約者がいる方でも、その座を狙っておりましたね。皆様、気合が入っておられました。」
「私はキッチンに居ましたが、王城のスタッフの間でも、ようやく元婚約者を諦めたらしいと聞きましたね。リーンハルト様は最近は顔が明るくなって、急に休むこともなくなったとか?」
「・・・そう、それは良いことよね。情報源はどこかしら?」
「聞き出した限りでは、社交界も商工会も、もちろん王城内ももうかなり広がっておりまして、元々を手繰るのは難しいかと。」
「アメリーの言う通り、そんな感じでしたね。強いて言えば…唯一ドーリス侯爵家は適齢期のお嬢さまがいるにもかかわらず、輪の中に入らず、お嬢様をけしかけることもなく…なんて言うんでしょうね?一歩下がって観察しているような?」
アグネス部長がにっこりと笑う。結い上げられた白髪が、陽に輝いている。
「それから…。」
アリーナが優雅な仕草でカップを戻す。
「リーンハルト様がアルミン男爵家のお嬢さまをエスコートしたまま休憩室に入られたでしょう?あの後会場は大荒れでした。」
「そうね、狙っていた男を、離婚4回の女に取られたとあっては、皆、悔しがりますよね。うふふっ。」
「・・・でも、思わず納得するほどの美しさでしたね。お二人並ぶと、国宝級でした。いい目の保養でした。ちらりと見たら、ドーリス侯爵殿も動揺が隠しきれていませんでしたね。興味がない風を装っていたのに。」
(・・・ドーリス、ねえ…)
「そうそう、アーダが侍女役だったアルミン男爵は、国王陛下に代替わりを命じられておりましたので、近々、そうなるかと。あそこの家の跡取り息子は、この春アカデミアを卒業した真面目な方らしい。親に似なくて幸いでしたね。」
「そう。」
「あら、そう言えばアーダは、そのままここに戻ったんでしょう?歩いて帰ってきたのかしら?夜道は気を付けなさいって言ったのに。ね?」
「まあ、アーダだからね。」
二人は顔を見合わせて笑っている。たいして心配しているような口ぶりでもない。
「あとは…そうですね、国政への不満などは聞いておりませんが、まだお若いので不安はあるようですね。お子の問題も…。」
「そうですね、どうも、王妃に子がないことで、側妃を勧めたい輩がいるみたいですね。今独身のご令嬢方は、王の側妃か、公爵家嫡男の正室か。どっちか狙い?本人としてはもちろん側室でドロドロするよりは正室狙い、でしょうが、親御さんの目論見はまた別でしょうからね。」
アグネス部長がお茶を入れ替えてくれる。
「・・・面倒なことに、リーンハルト様の王位継承権がねえ。国王に男子が生まれさえすれば…。まあ、あのお二人にもめごとはなさそうですが、周りはほっといてはくれませんからね。」
そこよね…。
その後は…今の流行のドレスの形や、髪型…。どこぞのご令嬢が分不相応なほどの大きな石を身に着けていたとか…。誰と誰が噂になっているとか、バルコニーにいた組み合わせとか…。
そんなたわいもない噂話を楽しく聞いて、お開きになった。