第4話 洞窟を抜けるとそこは、異世界だった
こんにちは、房吉と申します!
主人公の芦名は昭和18年の海戦で散った駆逐艦艦長。ヒロインの陽菜は令和の会津若松から来た女子高生。二人が出会う異世界は、なんと会津地方によく似た場所!
〜この物語のポイント〜
太平洋戦争を経験した軍人の視点から見る異世界
RPG風の冒険と成長
甘酸っぱい恋愛要素
会津の風景や文化を反映した異世界
しっかりした世界観と魔法バトル
私は会津人なので、その魅力を詰め込みました。また、戦前の歴史も調べながら書いています。歴史ファン、異世界ファン、恋愛ファンの方に楽しんでいただける内容になるよう頑張ります!
それでは本編へどうぞ!
うちは洞窟の内部に耳を澄ませていた。冷たい空気が肌を撫で、岩壁からは何とも言えない古い匂いが漂う。
すると、さっきまでの静寂を破るように、どこからかかすかな物音が聞こえた。まるで小さな生き物が爪先で岩を引っかくような、不気味な音色。
「……何? 何がいるの?」
こわごわとつぶやいた声が、岩壁に反響して、まるで誰かの囁きみたいに何度も繰り返される。そのエコーが、この暗闇をさらに不気味に彩っていく。
スマホのライトを音のした方向へ慌てて向けてみるけど、何も映らない。ただ闇が深くなっているだけ。
いったんライトを消して暗闇に戻ると、不思議なことに、さっきの音のした方向がわずかに明るんでいる気がする。幻? それとも本物?
「何かいるなら、出てきなよ……怖いから……」
震える声で呼びかけても、洞窟はまた静かになった。ただ、耳をすませば岩の奥でかすかな生命の息吹のようなものを感じる。まるで洞窟全体が呼吸しているかのような、微細な振動。
スマホの通信状況は相変わらず圏外。未知の場所で孤立している現実が、さらに不安を掻き立てる。
(……無駄にバッテリー減らすわけにいかねぇし。万が一出口が見つからなかったら、最悪だべ)
そう思いながら電源を落とし、暗闇の中を手探りで進み始める。一歩一歩が未知への恐怖との闘いだった。
壁に触れると、冷たくてヌルヌルした岩肌が指先を撫でる。ところどころに苔らしきものが生えていて、思わず指先を引っ込めたくなるような不快な感触が神経を逆撫でする。
下を踏みしめるたび、湿った床の感触が生々しい。足元には何かぬめりがあって、靴底がときどきくっつくような変な感覚。足をすべらせないよう慎重に歩を進める。
「こんなとこ、会津にあったっけなぁ……一度も聞いたことないよ……」
自分を励ますように独り言を呟きながら、さらに奥へと進む。やがて、小さな水滴の音が遠くからリズミカルに響いているのを感じた。ポタン、ポタンという音が、どこか規則的で、まるで洞窟が鼓動しているようだ。
だけど音の反響のせいなのか、本当の位置や距離はさっぱり掴めない。そのせいで感覚がどんどん狂いそうになる。
まるで迷路の中をさまよっているような心細さ。
空気は重苦しく湿気を帯びていて、妙に生ぬるく肌にまとわりついてきた。呼吸するたびに、異質な香りが鼻腔を刺激する。
(……早く出たい。絶対、もうすぐ出口があるはず……)
そう自分に言い聞かせるように歩くと、遠くに微かな光の斑点が見え始める。暗闇になれた目には、それが何よりの救いだった。
「……もう少しで外だ……きっと元の世界に戻れる……」
期待をこめて足を速める。心臓の鼓動が早くなり、呼吸も荒くなる。ついにうちは洞窟の出口らしき場所へとたどり着いた。
眩しい光に目が慣れるまで、少しかかった。まぶしさに目を細めながらも、開放感に胸が躍る。でも、目を開けた瞬間、思わず息が止まった。
「は……?」
そこには、うちの知る会津若松の市街地とは似ても似つかない、見渡す限りの深い森林が広がっていた。
鮮やかな緑をした木々が風にそよぎ、その中に点在するシダやコケが珍しいほど生き生きと輝いている。日差しを受けた露の粒が、きらめきながら葉から舞い落ちる様子は、まるで森全体に星が散りばめられたよう。
「ちょ、え……なんか全然場所が違うんだけど!? これ、いくらなんでも会津の森じゃないよね……」
うちは半信半疑のまま、しゃがみ込んでシダを触ってみる。触れた途端、露の水滴がこぼれ落ち、手のひらが湿る。シダ自体は地球のものと同じなのに、どこか異質な感じがする。
「……ヤバくね? この森、なんか変……普通の植物なんだけど、どれも生命力がありすぎというか……」
慌てて手を引っ込め、周囲を見回す。草も木も、基本的には見覚えのある種類だけど、どれも色が鮮やかすぎる。まるで彩度を上げた写真みたいだ。
周りを見上げると、やたら巨大な樹木がいくつもそびえ立っている。杉やブナのような形だけど、普通の木は数十メートルくらいが限界なのに、こいつらはビル並みに高い。幹には太いツタがぐるぐる巻きついている。
「……こんなデカい木、どこにもねぇべ!? こんなにデケぇのなかったし……いやいや、ちょっと待て、これどう考えても日本じゃねぇよな?」
深呼吸してみると、空気が異様なくらい澄んでいるのに、どこかスパイスっぽい刺激臭も混じってる。踏みしめる土は赤茶けていて、やけにふかふか。足が微妙に沈む感触があって、なんとも言えず不思議な感じだ。
「……さすがに異世界とか、マンガじゃあるまいし……」
そう呟いた途端、近くの草むらから「ガサッ」という音がした。
風はないし、絶対何かがいる。心臓が急にバクバクして、うちの呼吸が浅くなるのが分かる。
全身の筋肉に力が入り、逃げる準備をする。
「……え? 誰……?」
慎重に振り返ると、そこから現れたのは鋭い牙をむき出しにした大型の獣。
狼っぽいけど体格が異様にでかくて、目が血のように赤い。
その獣は、うちの方をじっと見つめ、唸り声を上げた。低くうなる声は胸に響き、本能的な恐怖を呼び起こす。
見るからに殺気むき出しで、腹をすかせた肉食獣そのもの。
よだれがだらだら垂れて地面を濡らすたびに、ゾクッとするほど生臭い空気が漂ってくる。
しかも、その獣はうちを獲物認定したのか、じりじり距離を詰めてきた。
「……これ、ヤバいんじゃね? うち、マジで死ぬかも……」
うちは少しずつ後ずさりする。足が震えて、うまく動かない。汗が背中を流れ落ち、心臓は今にも飛び出しそうなほど激しく鼓動している。
けど、後ずさりしたその一歩が、まるで合図みたいに作用してしまった。草むらから次々と同じような赤目の獣が姿を現し始める。
「え、そっちにもいんの!?」
一匹どころか、群れになってうちを囲もうとしている。戦うとか無理ゲーすぎて、そんな選択肢は1ミリも浮かばない。残された道は一つ。
「うわああああああ、助けて~~~!!!」
全力で逃げ出すけど、四つ足の獣と二足歩行のうちじゃスピードが違いすぎる。あっという間に追いつかれて、ついに足にガブリと噛みつかれた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」
激痛に絶叫しながら転倒し、そのまま地面へダイブ。硬そうに見える土だけど、意外と柔らかくて砂にめり込むように衝撃を吸収してくれた。
「痛ぃ! 離せ、離してよぉ!」
獣の牙は想像以上に鋭く、足首を貫いている感覚。だけど、声を上げるのがやっと。足をばたつかせても、獣はますます強く噛みつくだけ。
さらに別の獣の体重がうちにのしかかり、牙が喉元に迫る。息が詰まるほどの生臭い息が鼻をつんざき、頭の中が真っ白になる。
(もうだめだ…… まさかこんなとこで終わるなんて……)
瞬間的に、見知らぬ土地で死んでいくことへの寂しさと、家族への思いが胸を締め付けた。うちは目をぎゅっとつむった。
その瞬間。
——ガキンッ!
鋭い金属音が空気を裂き、獣の身体が一瞬で吹き飛んだ。重かった体重が消え、急に身体が軽くなる。
「——ッ!」
鼻先に漂う鉄の匂いと、血の生臭さ。地面にどすんと落ちる獣の重い音が、耳を揺さぶる。動物の断末魔のような叫び声が、森に響き渡った。
ゆっくり目を開けると、目の前に威厳ある姿勢の軍服姿の男が立っていた。長刀を手にしていて、まるで時代劇の侍みたいに刃先から血を振り払っている。
硬く引き締まった表情に、乱れのない動作。一瞬の隙もない身のこなしには、一切の無駄がなかった。ただそこに立っているだけで戦慄するほどの殺気と気迫が漂っていた。
うちは言葉が出なかった。恐怖で固まっていた身体が、徐々に安堵へと変わっていく。
男の鋭い視線が、うちへと向けられる。その目は冷たいわけじゃないけど、ものすごく凛々しくて、ある種の威圧感がある。刀身が陽の光を受け、きらりと反射した。
(助けられたのは確かだけど……この人、何者? さっきの獣をあんなに簡単に……)
恐怖と安心がないまぜになった複雑な気持ちの中、男が低く響く声を発した。
「貴殿は、日本人か?」
ハッキリした日本語に、一瞬思考が止まる。軍服と長刀、そしてこの異常な世界。
何もかもがおかしいはずなのに、男はなぜか古風な日本語をしゃべっている。
「貴殿」なんて、今時使わない。
混乱の嵐に巻き込まれて、うちは何をどう答えればいいのか分からず固まってしまう。
助かった安堵と、次はこの男に斬られるかもっていう恐怖が同時に襲ってきて、頭がぐるぐるする。
(……うち、マジどうなっちゃうの……? ここはどこ? この人は味方? 敵?)
質問に答えられず、ただ呆然と男を見上げるしかなかった。
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