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次の日のバイト中、私はパンを並べながらずっとあの歌を頭の中で歌っていた。
そして次歌う場所を考えていた。次に急行が止まる駅なら「大黒通り」になる。
でもあそこは繁華街だから、他の路上ミュージシャンも多いし、なんせ緊張する。
すると愛里が横からやってくる。
そして、私がやっていたパンの陳列を手伝う素振りをして、小さく呟く。
「あんた、昨日なんかあった?いつもと様子違くない?」
「え?」
急の言葉に驚く私。愛里は小さく笑う。
「つむぎって本当、ピュアよね。分かりやす過ぎ」
「い、いや。あのほら長峰駅歌えなくなったじゃん?だから次はどこにしようかって考えてたのよ」
愛里は私の顔をジッと見る。
「それだけ?」
「うん。わ、私にとっては結構重要な事だから」
「そう」
そして愛里はパンの陳列を続ける。そしてボソッと呟く。
「大黒通り以外に、選択肢ある?」
「あ、でもあそこは人通り凄いし、他のミュージシャンも多いし」
彼女は私の言葉を遮り
「だからいいんじゃん。私あんたの歌好きだよ、聞く人が増えればきっともっと有名になるって。私ずっとそう思ってたもん」
それは、意外な言葉だった。私は少し笑って
「よく言うよ。私の歌なんて数えるくらいしか聞いた事ないくせに」
愛里も笑う。
「あんたの歌、最近暗いからね。しかもコピーばっかだし。でも最初の頃の歌は本当に好きだった、あんたが思ってる以上に聞きたい人多いと思う」
陳列が終わったパンを少し整えて愛里は立ち上がり
「だから大黒通り、丁度いいんじゃない?初心に返って行ってきなよ」
すると丁度、空になったレジに人が立っているのを見つけ、彼女はレジに走っていく。
・・・初心。
なんだかこの言葉は妙に私の心を突き刺した。初心、か。
するとまた歌詞が降ってくる。
「マジシャンが持つのは偽りの剣 でも何も知らず目を瞑る私 見える物は全て鮮やかで
流れでる血さえも鮮明で興奮した 嘘か本当かなんてどうでもよかった
それでも今の私はここにいる」
ゾクッ、そんな音が脳内から聞こえる。私は忘れない内にメモを取り出し歌詞を書き出す。
そして考える。
確かに、初心に戻って大黒通りはありかも知れない。それに、昨日出来た曲も歌ってみたい。
・・・歌ってみたい。こんな感覚、いつ振りに感じたんだろうか?




