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吐く息が震えた  作者: シンジ
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1-2

時刻は22時を過ぎ、5曲程歌った私は帰る事にする。ギターケースには218円入っていた。

確か2曲目あたりで若いカップルが小銭を入れてくれた記憶がある。この中途半端な金額は多分、コンビニのお釣りだろうか?

私はそれをポケットに入れ、ギターを仕舞い夜の歩道を歩く。途中コンビニに行って、あの小銭でハイボールを買う。

この帰り道は嫌いじゃない。私は歌手として得たお金でハイボールを飲んでいるのだ。

アルコールの作用で少し頭がふわふわする。夜道は暗くて人影はない。マンションと街灯と月だけがこの空間を照らしていて、そこには私しかいない。もはや私を照らしてるんじゃないか?そう思ってしまう。

お酒は脳内を活発的に駆け巡り、歪んだ世界を投影させる。私一人しかいない夜道と細かく照らす光は、ライブ直前のステージにも見えなくない。

私はハイボールを飲み干し、上京したての頃に作った歌を小さく口ずさみながら、夜道を歩く。

あの頃はアルコールなんて無くても、見える世界全てが夢と繋がっていた。そんな事を思い出し、少し干渉に浸る。でも依然、口ずさむ歌には荒削りながらも自分の才能を感じた。


「やっぱり悪くない」


マンションのエントランス付近まで帰って来て、ふと自分の部屋の窓を見る。電気は付いていた。

私はそれを見て、少し微笑んでしまう。

私には彼氏がいる。私と同じく夢を持った3歳下の彼氏。彼は小説家を志しながら、スーパーで品出しのバイトをしていた。お金はないが廃品の弁当や半額の総菜を買って帰って来てくれる、そんな彼に私は夢を追う大事さと愛を感じる。


「ただいま~」

玄関で靴を脱ぎ、部屋に入る。彼はいつもの様にパソコンに向かい小説を書いていた。

テーブルには半額シールが貼ってある「七種の幕の内弁当」と「フワフワ卵の天津飯」と書かれた弁当が置いてある。

「おかえり。テーブルの弁当、つむぎはどっちがいい?」

彼は私を見て笑いながらそう聞いてくる。

「じゃあ天津飯かな」

「そう。じゃあ食べよっか。インスタント味噌汁も買ってきてるから湯沸かすね」

「うん。ありがと」

何気ない会話。でもそれが心に染みる。


彼に出会ったのは1年前。私が勤めるコンビニのお客だった。そしてある日、彼に喋り掛けられた。

最初は品物の場所でも聞いてくるのかと思ったが、第一声は私の想像の斜め上だった。

「長峰駅でいつも歌っている人ですよね?」


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