始まり
「あ、今日、おじいちゃんの家で稽古だ」
「あんたもよく続けられるわよねー…刀とか武術とか、私はムリだわ」
「それはー…唯が普通の女子だからだよ」
「あんたも十分普通の女子だと思うけど…いや、そーでもないか」
あはは、と教室の隅で笑い声が作られる。
いつまでも平凡な生活が繰り返されるのかと思っていた。
友達と話して、買い物して、彼氏とか作って、結婚して、子供作って…好きな武術を続けて。
でも、終わりはいきなりやってきた。
普段と変わらない生活。勉強して、ベッドに潜り込んで直に寝た。
流石に稽古で体が疲れてたのか、いつも以上に寝るのが早かった気がする。
いつもは夢なんかみないのに、夢をみた。
夢には黒髪の男が出てきた。目は紅く、美しくて、でも、
恐ろしい。そんな感じがした。
「貴方は…誰」
「私の名前はブラッド。この国で王を務めている」
「…」
そんなこと言われても困る。だから、何だって言うんだ。
「お前を迎えに来た」
「はい?」
「これから我が国へと向かう」
「え、ちょ…」
意味が分からない。
「なんで、私が連れて行かなければならないんですか」
「お前を必要としているからだ」
腕を引っ張られ、光の方に向かう。
ジリリリリ!目覚ましの音が耳元でする。何事かと飛び起きた。
「何だ、目覚ましか…」
そこで夢は終わった。
「耳、痛いな…」
目覚ましを止める。
午前六時。起きないと、朝の稽古が出来ない。まだ半分寝ている脳を動かして、ベッドから降りる。肌寒い。十二月だから当たり前か。
クローゼットからジャージを出す。朝寒いときはいつもジャージだ。胴着でなんてやってられない。
ジャージに着替え、髪を整えて階段を降りる。時間はまだ六時二十分前だ。でも、既に朝食の用意は完璧だった。
「おはよう」
「おはよう、眞子。さ、朝ご飯食べて稽古やっちゃいなさい」
「はーい」